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彼が信用できないとかじゃなく、今まで好きな人すら居なかったわたしがこんな恵まれた生活をしてるということが信じられなくて、突然足元を掬われそうな不安に駆られる。
「でも……母のこともあったし、十分代償というか、酷い目にも遭ってるし、釣り合ってる、のかな……」
呟いて、よっぽど貧乏性なんだなと思う。お金のことじゃなく精神的に。
あんなに優しくしてもらったことがないから、生まれて初めて食べる甘いお菓子みたいで。いつの間にか口の中で溶けて無くなってしまいそうで怖いのだ。
釣り合うくらい悪いことでもないと、まるで期限付きの夢みたいに突然覚めてしまいそうで……。
いつの間にか手が止まってることに気付いて、慌ててまた食べ始める。
せっかく買ってきてくれたのに勿体ない……と口に運んでいると
「お先」
と彼が出てきた。
下はスウェットで、まだ髪は濡れててバスタオルを肩に引っ掛けただけの格好で彼は言う。
「なんだ。まだ食ってたのか」
「……すいません。でも、美味しいです」
「無理しなくていいぞ。残したっていいんだから、……ってガキじゃねえんだから世話焼き過ぎだな」
ぼやきながら彼は、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出す。
「別に、そんな風に思ってないですよ」
「それならいいけど。オッサンやることウザかったら言えよ。今だけの話じゃねえから。先もあんだからな」
と、グラスに冷たい水を次いで彼は一息に飲み干す。
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