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「……そう言うなら、竜もそうしてくださいね」
「俺か?」
「時々、カッコつけて無理するから」
「痛ェこと言うな」
彼は苦笑いを浮かべて言う。
「ま、そりゃ自分でも分かってるから気をつけるわ。水飲むか」
「……うん」
次いだのをテーブルに置いてくれた時、わたしは彼を見上げて言った。
「あの、さっき話したいことあったんですけど、聖さんの電話の件で何か考えてるみたいだったから……今、大丈夫ですか?」
「……どうした?」
ペットボトルを冷蔵庫にしまってから、彼はテーブルを挟んで前に座る。
「……今日、会社出たところでちょうど鹿野さんに会って────」
話し終わるまで、彼は一言も喋らず、唇を結んでテーブルに片肘をついて、じっとわたしの話を聞いていた。
「――――で、結局ここまで一緒だったんですけど……」
話を消化するように、しばらく彼は黙って考える顔をして、それから言った。
「まぁ、いいんじゃねぇのか。俺が二十四時間いつもお前守ってやれるわけじゃねえし。ってか、出来れば今日みたいに遅い時も、時間合わせてやりてえんだけどな」
「いや、それはいいです。残業のたび毎回なんて悪いし、竜だってお客さんのところ行ったり」
慌てて言ったけど、耳に入ってるのかいないのか、彼は眉間に皺を寄せて言った。
「正直言えば、俺だって心配なんだ。お前がまた昔の『客』に出くわしたらってことは。その頃のことをどうこう言う気は全くねえけど、今、お前に妙なことされたら、俺どうなるか分からねえしな」
彼は、煙草の煙でも吐き出すみたいに深い溜息をつく。
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