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何か眠気覚ましになるものがないかとバッグの中を探ったら、前に買っておいた粒のペパーミントガムが出てきた。
「竜。ガム食べますか?」
「……もらう」
包み紙から出して、手のひらに乗せてあげると彼は口の中に放り込む。
自分もひとつ口に入れて、わたしは言った。
「そういえば、禁煙するとこういうのでごまかしたりするイメージありますけど、竜はあんまり食べないんですか?」
「好きじゃねえんだよなー。ずいぶん前だけど、銀歯取れたことあって」
「……それ、いいんですか?」
「ああ。お前からもらうのは、別」
何それ。
……そういうこと、サラッと言うから……。
「自分でコンビニで買ったりしねえけど、お前がくれるのは気紛れるし、食べる。そんだけだ」
たわいない話をしてるだけなのに、胸が一杯になって、溜息が漏れてしまう。
「……それで、話って何ですか?」
「その前にもう一つ言っとくけど、やきもち焼かなくて淋しいなんて言ったら、オッサン、喜んで家にお前閉じ込めちまうからな」
「……え?」
真顔で、前を見たまま彼は言う。
「いい歳のオッサンが、いちいち小せぇこと目くじら立てンのもカッコ悪いから隠してるだけだ。顔に出さねえだけで、十分妬いてるから、安心しろ」
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