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【3】
黙って残りのアイスティーを飲んでいると
「言いたくないなら無理に聞かないけど、言った方がスッキリするなら言えば?聞くよ」
テーブルに両肘をついて、組んだ手に顎を乗せた江崎さんが言った。
「……面倒くさくないですか?」
「黙って死んだような顔してるの見てる方がよっぽどメンドくさい」
確かに。
電話の内容を話すと江崎さんは、ああ、と納得したように頷いた。
「そりゃ、どんな事情でも、好き好んで娘の彼氏に会いたい父親なんて居ないよ。うちの父だって、たまに彼氏来たりするとわざと会わないように避けたりするよ」
「そういうものですか……」
「そうだよ。気にしない方がいいよ。で、おじさんは来るの?」
「うん。……お客さんのところに行く用があるけど、なるべく間に合うようにする、とは言ってくれましたけど」
「良かったじゃん。大丈夫だよ。そんな気にしなくても。別に認めてくれなきゃ結婚できないわけじゃないんだからさ」
その夜、7時。
彼は少し遅れると連絡があって、わたしは、父と横浜駅近くのホテルのラウンジで向き合っていた。
ここに来るまでは、何を言われるのか不安で気が重かったけれど、父に会ってその気持ちは少し変わった。
ひと月ぶりに会った父はだいぶ痩せて、何歳も老けたように見えた。
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