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【5】
わたしは耳まで赤くして俯いた。
「……すいません」
「別に、構わねえよ。らしいな、って思っただけだ。今回はまだ『お嬢さんをください』ってのも、これからだろうし」
「え?」
彼は、父に向き直って口を開く。
「失礼しました。……おおよそは今お嬢さんが言った通りですが、2月になってまだ気持ちが続いてたらというのは、彼女のための猶予期間です。私の方は、ただ家に住まわせておくのは色々問題があることも分かってますし、腹は括ってますが、先ほど仰った通り、まだ23のお嬢さんですから、悩む時間は必要かと思いました。それで、まあ……知り合って1年ってことで、お嬢さんの誕生日にということでプロポーズさせてもらいました」
一度彼は言葉を切って父を見る。
父は相変わらず唇を結んで硬い表情は浮かべているけれど、認めるか認めないかは別としても話は聞いてくれるようで、ひとまずわたしは安心する。
「……ッてことなんで、今日は、こういうつもりでおります、ということと、その前提でこの先も私のところに居てもらいたいと考えておりますことだけ、お許し頂けたらと思って参りました。お嬢さんの気持ちが固まったあかつきにはまた改めてご挨拶と、結婚のお許し頂きたく、よろしくお願い致します」
……わたしが言うのも変だけど、あ、そうやって話を持って行くんだ、と妙に感心してしまった。
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