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【7】
「んっ……」
押し付けるように唇を触れ合わせて彼が離れると、コーヒーの苦い香りが残った。
「……なんですか。いきなり」
「別にいきなりじゃねえよ。昼間からずっと、口寂しくてしょうがねぇ」
あ。そっか。煙草……。
「せめて車まで我慢するつもりだったのに、誰かがクソ可愛いこと言いやがるから……」
「あたしのせい?」
「オメーのせいだ」
扉が開いて、わたしの手を握ったまま彼は出て行く。
コツコツと、人気のない駐車場にわたしたちの靴音だけが響く。
「あの、でも竜だってさっきから、いきなり手繋いだりして変」
彼は黙って歩いて、車の前まで来ると
「とりあえず乗ってからだ」
と顎を上げる。
なんか、変なの……というか、さっき何か考えてる風だったし、母の話も出たから気にしてるのかと思ったんだけど……。
助手席に乗り込んで、シートベルトに手を伸ばそうとすると、横から伸びた手が重なった。
「ん?」
「誰も居ねーからいいだろ」
外した眼鏡をダッシュボードに置くと、彼はわたしに被さるようにしてキスをする。
さっきみたいのじゃなく、もっと……ずっと我慢していた分を攫うような。
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