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【8】
「まだ、降ってる……」
残業を終えて帰ろうとすると、朝から変わらず降り続いている雨を前にして思わず溜息をついた。
父と会った月曜からもう三日も経つのに、ずっと雨か曇り空しか見ていない。
梅雨は分かってるけど、そろそろお日様が恋しいと思いつつ傘を差して歩き出した。
あの日、車の中でああ言われて、帰った途端に襲われるんじゃないかくらいに思っていたのに、結果として何もなかった。
普通にご飯を食べて、お風呂に入って、キスひとつすらなかったので、お風呂の中でさんざん考えて自分から声をかけた。
「あの、……竜?」
先にお風呂に入って、背中を向けてベッドに横になっていた彼は、寝返りを打ってわたしを見る。
「どうした」
どうした、って……。
「あの、だから、さっき言ってたじゃないですか。駐車場で。……いいんですか?」
彼はわたしの顔をまじまじと見て、それから笑った。
「……笑わなくても」
「わり。いや、なんか悩みでもあるような顔して来たから。それか、って」
「気にします。あれだけ言っといて何もないから。……何か遠慮でもしてるのかなと思って」
「ホントに真面目だな。お前は……んじゃ、こっち来いよ」
彼は布団を捲って、こちらに腕を伸ばす。
そう言われたら言われたで心の準備が出来ていなくて焦るのが、顔に出たのか
「いきなり襲ったりしねえよ」
と彼は笑った。
その腕を枕にするように体を滑り込ませると、彼はわたしを抱き寄せて額にキスをして言った。
「わりーな。いや、……がっつき過ぎて、引かれてンじゃねえかと思ってよ」
「……え?」
見上げると、わたしの頬に手を置いて彼は言う。
「だから、この前の土日も、ラブホ泊まってあれだったし、……体、心配になったのもあって。お前の。それでなくてもこの三日間でいろいろあり過ぎたろ」
「……って言っても、別にキスくらい……」
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