3125人が本棚に入れています
本棚に追加
/294ページ
【9】
鹿野さんの言っている意味は分かった。
この前、居酒屋で会った、わたしが二度と会いたくない人たちのことだ。
わたしの表情に構わず、彼は悪びれず言う。
「ヤなこと思い出させたらごめん。でも、駅まで繁華街も通るし、可能性なくはないでしょ。……固まってないで、歩きながら話そう」
と、彼は半歩先に立って歩き出す。
正直、それも考えたことがないわけじゃない。
けど、あの時はお店の中だったし、まさか街中で変なこともされないだろうと、考えようとしていた。
「……確かに、安心ですけど」
「けど?」
鹿野さんは、彼と背は同じくらいだけど、それでもやや竜の方が高いかなと、並んで歩くと思う。
「なんか、利用してるみたいで嫌です」
「それは、なに。俺が涼子ちゃんを好きだからってこと?」
「――――はい?」
思わず足を止めて見上げると
「だって、そういう意味でしょ?あれ?俺今まで言ったことなかったっけ?」
「……いや、……そこまではっきり、言われたことは……」
彼は傘の下で一度視線を宙に上げて、少し考えて言う。
「まあ、俺にとってはどっちでもいいんだ。はっきり告ってようが、なんとなくそうだろうと思われてようが。どうせバレてるんだし、今のところ望みがないのは同じだし。だから、さっき利用って言ったけど、ぶっちゃけて涼子ちゃんの気持ちは関係ないんだよ。俺がそうしたいだけだから。いわば、タチのいいストーカー?」
申し訳ないけど、その表現すごくしっくり来る。
最初のコメントを投稿しよう!