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【10】
「飯は適当に買ってあるから」
駅の外に出ると、思い出したように彼が言った。
「ありがとうございます」
「いや、本当は何か作りたかったんだけど、ちょっと聖から電話来てゴタゴタしてな」
「……お家で何かあったんですか?」
聞くと、彼は難しい顔をして言う。
「あったと言や、あったけど、親が病気とかそういう話じゃねえから。……ちょっと、落ち着いたら話すから」
その表情から、あまり良い話ではないのは分かったので、余計なことは言わない方がいいのだろうと思った。
「分かりました」
「ン。……ごめんな」
くしゃくしゃと、彼はわたしの頭を撫でる。
「いえ」
首を振って、わたしは考える。
今、このタイミングで鹿野さんのことを話すのはあまり良くない気がする。
黙って隠しておくつもりはないけど、せめて帰ってからとか、少し後にした方がいいのだろう。
何かあったなら、それ以上余計にイラつかせるようなことは言いたくないし……。
「涼子?」
いきなり呼ばれて顔を上げると、彼が心配そうに見ていた。
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