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大学院へ進むことにした。
1社から有難くも内定をいただいたのに申し訳なかったが。
ゼミに入って、俺がやりたかったことはこれだ! なんて思ってしまってた。
院生取ってくれるのは成績優秀者だけだったから、不安だったけど。
結果、何とか潜り込めたので、決断した。
3年になるまでそこそこしか勉強してこなかったくせに。今更で。
また負担をかけてしまう両親には申し訳なかった。
と、母の台詞を思い出す。
「いいわよ。借金増えるだけだから」
俺は母しか知らないし。親ってこんなもんだと思って生きてきたけど。どうやらうちの母親はかなり変わっているらしい。
20歳の誕生日に。当日じゃなくてもいいから、どうしても実家へ帰って来いと言われて。
なんかプレゼントもらえるかと喜んで帰ったのだが。
「はいこれ」
と渡されたのは請求書で。俺あて。・・・ふた桁間違ってない? なにこのとんでもない金額は。
「明細はあれね」
と指さされたのはそこそこ大きな段ボール。
「最初はファイルしてたんだけど。だんだん面倒になっちゃって」
? 俺は箱を開けてみる。一番上にあるのは大学の。2年前期の教材費のPDF、印刷したもの。
端に立ててあるファイルを取り上げて開くと。
幼稚園の制服代金の領収書。パラパラッとめくる。子ども会費のプリント。
「これ、なに?」
「だから明細」
にっこり笑う母。
「この20年あんたにかかったお金。その請求書が総額。
しっかり返してね。借金はきちんと返すおとなになってください。誕生日おめでとう」
その請求書は、額に入れて飾ってある。本気にして真っ蒼になった俺に、父がフォローしてくれた。
「本当に金を返すなよ。・・・しかし、その請求書は大切にしとけよ。
母さんなりの愛情らしい。本当の請求書のように頑張って作ってたからな」
いらん、そんな愛情。
・・・しかし、どれだけのお金が俺にかかり、どれだけの苦労をして育ててくれたのか。
はっきり見てわかる。俺にはよく効く薬になった。
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