13 派遣社員・織田

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13 派遣社員・織田

 滝沢って後輩が仕事を辞める。  俺はしがない派遣社員だ。  滝沢はまだ28、世間の厳しさを知らない。 「失業保険って金もらえるんすねー、ハワイでも行こうかな?」  分かってない!失業保険、確かに国から金は出る。だが、雀の涙。国民健康保険、年金、税金を払わないといけなくなる。  失業したら行くのは地獄だ。ハワイになんて絶対にいけない。そりゃ何百万ためてりゃ話は別だ。  どんなにツラくても辞めたらダメだ。 「ハワイ?いいなぁ、アタシも連れてって」  原田トミヨって魚みたいな名前の女が言った。  ムサシトミヨって伝説の魚がいるが?もしかしたら彼女の親は釣り好きなのか? 「もしかして2人」 「分かりますぅ?近藤さん冴えてるぅ」 「トミヨちゃん、ソイツとつきあうのはヤメたほうがいい。あの世に行きたくなかったらな?」 「何言ってるの?タクちゃんは悪い人じゃない」 「タクちゃん?」   「滝沢タクヤってゆーの、知らないの?」 「知らない」 「織田さん、アンタ俺を死神みたくゆーのやめてくれます?」 「いや、そーじゃなくて、失業したらイロイロ大変なんだ!税金やら何やらで海外どころか国内旅行だって行けないよ」 「こんなブラックな会社にいるのウンザリです!」 「何だとぉ!?せっかく雇ってやったのに!?」  西野課長がカンカンになって怒っている。 「俺!車のデザインがしたかったんです!部品の組み立てなんてウンザリです!腰が痛い」 「誰だってガマンしてるんだ、腰が痛いくらいで辞めてたらどこもつけないぞ?」  増田主任が言った。角野卓造によく似てる。  赤木春恵が亡くなったな?泉ピン子イジメを見ることも出来ないな? 「主任の言うとおりだ、金井くん考え直せ」  俺は金井を弟のように可愛がっていた。  藤田専務が亡くなり、後任に彼の愛人だった石田サトミが就任した。  サトミは『重いものは新人に持たせるように』と、指示してきた。俺は派遣だから新人のサポートを任された。  5年もいるのに!  3年目の大谷なんか軽作業に回され、しかも収入アップだ。
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