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大人になった僕は職業柄、美しい物を見る事が多くなった。
だが、子供の頃に見つけた特別な場所で見たものより美しいと思える物には出会えなかった。
今、僕の目の前にあるこれもそうだ。
広い部屋に掲げられるように飾られた一枚の絵を見つめる。
白い雪原に少年が一人。
点々と続く足跡。
「これが先生の新作ですか!相変わらず幻想的な絵ですね。これなら買いたがる人も多いでしょう。儲けてるみたいじゃないですか。聞きましたよ、雪原を買ったって。この絵の為だったんですね。」
絵を見つめる僕の隣に歩み寄って来た男が絵と僕を交互に見ながら話しかける。本当の美しさを分かっていない。あの特別な場所に比べたら、こんな絵なんて価値はない。
「…有難う御座います。」
男に気のない返事を返し僅かに頭を下げる。男は顎を撫でながらじっくりと絵に視線を走らせた。そして、ある一箇所で視線を止めれば、その場所を指差す。
「これは何ですかね?この足跡が所々紅いのは…。」
首を傾げながら目を細め紅い足跡に顔を寄せる。目を凝らした所で僕の意図が掴めるわけもなく、直ぐに僕の方へ見直る。
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