第1話

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第1話

「仁科さんは、世界を飛び回る写真家としてご活躍ですよね。何か信条のようなものを持って写真を撮っていらっしゃるんですか?」 「そんな大した人間じゃありませんよ。私は撮りたいものを撮っているだけです」 「撮りたいもの、ですか。例えばどんな時にシャッターを切りたいと感じますか?」 「どんな時……ああ、何が撮りたいのかはいつも同じですよ」 「同じなんですか?」 「ええ。魂をね、撮りたいんです」 私は写真家だ。 少なくとも、そう呼ばれているし、それで生計を立てている。 若い時にカメラ片手に日本を飛び出し、撮りたいと思うものを撮って生きて来て。 それで日本に帰って来たら、知らぬ間に名前が売れていて。 最初のうちは、有名人になった気分で多少は浮かれている部分もあった。 ただテレビやラジオのコメンテーターとして呼ばれたり、雑誌の取材を受けているうちに、自分自身とその写真が勝手に定義付けられていくような気がして。 そんな風に、中途半端に芸術家を気取っているような自分も嫌で。 自由に写真を撮ることすらままならなくなって、呼吸の仕方を忘れそうになったある日、私は全ての予定をキャンセルして消息を絶った。
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