第2話

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第2話

「~~♪」 私の知らない歌を口ずさみながら、彼は水を掬い上げては落とすことを繰り返していた。 先程は余裕がなくて気付かなかったが、彼はジーンズにパーカーという至って普通の格好のままで、濡れることも気にしていないようだった。 彼は時折、子供がカメラで写真を撮るマネをする時のように、指で四角を作って世界を覗いた。 その時ばかりは、彼の無邪気そうに開いた瞳の奥が、どこか叡智を湛えたように閃くのを見た。 見た目に不釣り合いなその表情が、私の背筋をゾクリとさせて、またもう一枚とフィルムの残数が削られていく。 今この瞬間だけで、持ってきたフィルムが切れてしまうような気がしていた。 一枚も撮り逃がしたくなかった。 どうしてか、こんなにも彼に惹かれていた。 比較的整った顔立ちだが、特別美しいワケではない。 どちらかと言えばスラリとしたモデル体型だが、私は理想的なモデルを求めてはいない。 何が私を衝き動かす?どうして彼を撮ることを止められずにいる? ああ、前にもこんなことがあった。人生のうちで、数えるくらいだが、確かに。 ここがターニング・ポイントだ。 私の人生を、写真家としての生を、進めてくれる何かが彼にはある。
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