82人が本棚に入れています
本棚に追加
二ページ 才能と憧れ
僕達がカナリアのデスゲームに参加してから二週間が経ち、施設の使い方に慣れ始め、人間関係の方面では仲間内でのグループみたいなものが出来上がり始めていた。
この二週間の間に僕等もある一人を除いて皆と会話を済ませた。施設も快適で食事も美味しくて僕等は自分達が罪人(カナリア)であるという事を忘れている気がした。
カナリアと言えど人間には変わりなくて、朝食を摂りに来た僕と平の前では、理由は分からないが女の戦いが繰り広げられていた。
「ふざけないで!!!あんたが悪いんだから!」
「百合には関係ないしぃ、てゆーか毎日毎日楯突いてきてこわいんですけどぉ、誰か百合を助けてぇ」
ここ最近目立って争っているのは見た目から正反対同士の日暮茉里と九条百合だった。
原因は分からないが、互いの性格の違いもあってか口を開けばいい言い争いになって、その度に茉里は声を荒げていた。
カナリア同士だから何が起こっても不思議ではないが、食事の時間くらいは静かに過ごしたい。
だけど下手に口を挟むと火に油を注ぐことになりそうなので皆は見て見ぬ振りを決めていた。
何故、二人が争い始めたのかを知りたくてたまたま食堂に先に来ていた黄瀬さんに平が話しかけた。
誰にでも愛想よく振る舞える平に尊敬の念を覚える。
平が今話している黄瀬さんは物腰が柔らかくてとても話しやすい優しい女性だった。始めて話したあの日も初対面の平に対して親切に受け答えをしてくれた。
そしてあれから何日か経つが毎日毎日飽きずに二人の攻防は続いていた。
黄瀬さんからことの発端を聞いたが僕にはイマイチ理解しがたい内容だった。
『九条さんがアン君に媚を売っている』というのが一番の原因らしいよ、そう黄瀬さんは困り顔で話をしてくれた。
確かに九条さんは他のカナリアよりもアン・スリウムさんと親しくしているようだがそれが日暮さんにとって何が気にくわないのかよく分からなかった。
そのことを黄瀬さんに尋ねると黄瀬さんから返ってきた答えは『アン君が九条さんのことを日暮さんの前で一番可愛いって言ったから』というものだった。
黄瀬さん曰く、日暮さんが気に入らないのは恋愛的な話ではなくて、自分がこの中で一番可愛いという言葉をもらえなかったことにあるらしい。
一番…その言葉に何が秘められているのか、僕には検討もつかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!