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例えば、もしアン・スリウムさんから一番の称号を貰えても、それが他者にとって同じ感性なのかと問われれば答えはイエスではない。
一人の一番を貰ったところで何にもならないし、日暮さんにとって何の意味があるのだろう。
そこまでの固執が僕には分からなかった。
それは当人(日暮茉里)にしか分からない問いだ。
「いやだぁ、茉里さんこわぃ~アン君助けてぇ」
「いちいち男に頼ってんじゃないわよ、このビッチ!」
二人のやり取りがだんだんに危なくなってきたところで、遠目から静かに見ていた蝶番舞鶴さんが止めに入った。
「お二人さん、ええ加減にしぃや、せっかくの食事が不味なるわ、仲良くしぃなんて言えへんけど体外にしぃや」
蝶番さんの言葉は嫌味がなく、大人が子供に言い聞かせるような言葉の届き方だった。
二人とも蝶番さんの顔をちらりと見てから深い溜息をつくと日暮さんは食事も摂らずに食堂から出て行ってしまった。
「はぁ…あの子ら二人とも…ええ子やのにな…」
蝶番さんは美しい指に煙管を乗せ、二人の様子を眺めながら溜息を漏らした。
「女が二人以上集まると何かしら揉め事が起こりやすいんわ何処も同じやな…」
蝶番さんは苦笑いを浮かべて食堂を後にした。
僕達は食堂のテーブルに黄瀬さんを交えて座り三人分の朝食が並ぶのを待っていた。
この施設に来て初日以降は自分達の好きなものを頼む事が許されていた。
今朝は僕と平はトーストの上に目玉焼きを乗せたエッグトーストとドリンクにホットココア、クラムチャウダーを頼んでいた。
周りを見渡すと食堂には僕達の他にも食事を摂っているカナリアがいた。
先程まで争っていた九条さんの隣にはアン君が座り、その対面に蝶番さんが座って三人で談笑しているようだ。
「なあ、咎愛はさ日暮と九条どっち派?」
「どっち派って何が?」
「あーあ、鈍いな咎愛は」
「ん??」
「どっちがタイプか聞いてんだよ」
「えぇ!タイプ…?考えたことないな…」
朝からいきなり刺激的な質問を平に寄越されて戸惑っていると、黄瀬さんが僕に助け舟を寄越してくれた。
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