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芙蓉さんが何気なく発した言葉にすぐさま平は食い付いた。僕の意識は櫓櫂さんの話の方へ行っていて全く気が付かなかったのにやはり平はすごい。
「月華ちゃんは保護対象なんですか?」
芙蓉さんは隠すそぶりもなくふわっとした柔らかい笑みを浮かべるとゆっくり頷いた。
「どうして保護対象だとわかったんですか?」
平が芙蓉さんに矢継ぎ早に質問を繰り出していると芙蓉さんの横から月華ちゃんが口を開いた。
「月華には記憶がないの、日本に来てからお母さんと暮らしてたの、だけど目が覚めたらここにいて、夏彦お兄ちゃんと仲良くなったの」
「そっかあ、お話してくれてありがとう、それに日本語上手だね」
「うん、日本に来る前から習ってたんだよ」
「そっかあ、月華ちゃんは頑張り屋さんだね」
「うん、月華もっと頑張る!」
ここが、この人達がカナリアだなんて思えないくらいの温かな光景に僕の心は和んでいた。
「じゃあ、そろそろ僕達は音楽室に行くよ、今日は牡丹君から一曲演奏してもらうんだ」
「へぇー牡丹さんってそんなことできたんだ」
「うん、ここに来る前は有名な音楽家だったみたいだよ楽器はなんでも出来るみたいだし、専攻はヴァイオリンだって本人は言ってたけど、今度よかったら愛美君達も聴きに行くといいよ」
「はい」 「聴きたいです」
僕達の返事に芙蓉さんは微笑むと月華ちゃんを連れてゆっくりと歩き出した。
僕も平と並んで再び歩き出す。
「芙蓉さんはやり手かもな…」
「えっ!?何がどうして?」
芙蓉さん達が見えなくなった後、平が漏らした言葉の意味が僕にはよく分からなかった。
「保護対象の月華ちゃんを連れて歩くことで芙蓉さんからターゲットが月華ちゃんに移りやすいだろう?しかもああやって大胆に月華ちゃんが保護対象だって話すなんて、普通ならしないな」
「確かに平は僕のことを他の人に話したりしないもんね」
僕が平の言葉に納得して頷いていると平は俺の肩を優しくトントンと叩いた。
「俺は咎愛を囮にはしないさ、そんなこと俺のプライドが許さないぜ」
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