序章

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どんな英雄王にも、苦い経験はあるものだ。 大陸を支配した聖王国が崩壊し各自独立した諸王、諸侯による戦乱の時代が幕あけして数年。戦いの趨勢は未だわからない。誰かが領土を拡張すると周囲が襲い掛かり、また違う者が伸張すると叩く、これの繰り返しが続いている。 のちの世では百家争乱戦国の時代とよばれ、ひとことで黒の時代と呼称された。 エスメ王国はハークス王に治められた比較的平穏な国である。王は善政で知られ、家臣の功績を正しく論功することでしられた。それゆえに賢人武人。商人や避難民が集まる国である。そして聖王国時代は発言力と領土を持つ王国だった。現在周辺諸侯国から疎まれ、狙われ、幾度も戦いを繰り広げる状況が続いていた。 パルム平原の戦い。エスメ王国南にある旧パルム侯国領の平原で行われたパルム再興をめざす諸侯連合軍をエスメ正規軍が迎撃した戦いである。 パルム侯国はエスメ王国へ敵対行為を繰り返した末、エスメ王国が併合された。周辺諸侯国へ亡命した旧パルム勢力が旧領再興を名目に連合軍を結成。エスメ領内への進軍を開始した。一報を受けたハークス王はただちに反応。騎兵を中心とした一大部隊を展開することになり、歴史書には両軍合わせて十数万といわれる兵力が平原地帯で一大決戦に望んだのである。 戦いは早朝激しい弓矢の応酬にはじまった。両軍鶴翼の陣に構えて左右の翼の部分が接敵して混戦になった。このときエスメ軍が有利だったと史書は記す。そして中央部に布陣していたエスメ騎兵が連合軍の中心部の重歩兵へ突撃した時にはエスメ軍は勝ちを意識したとも史書は続けて記している。ところが混戦の極みにあったエスメ軍左翼が指揮官の戦死を引き金に総崩れになり、押し込んだ連合軍は突撃していたエスメ騎兵の背後に回り込んでしまった。その騎兵軍のなかにはハークス王もいた。 包囲を察したハークス王の動きは迅速だった。 「逆方向へ走れ!なにも考えるな!」 号令を発して包囲されつつある中一点突破の脱出を計った。 一部は包囲され壊滅してしまったが、王と残った騎兵たち。とくに親衛騎兵とよばれる精鋭は捨て身になって王を守りとおした。 戦いはエスメ軍の大敗。パルムと連合軍は旧領を回復して戦いはひとまず終わった。 エスメ大敗の報は周辺国を刺激する。新しい戦いの炎はどこから吹いてもおかしくない状況の中。 物語は始まる。
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