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母胎
ドアを開けて正面、ビッシリ詰まった塾や習い事のスケジュール表が視界に入る。
俺はこれが大嫌いや・・・見ないようにテーブルへ。
息子の冬馬が朝飯を食べていた。いや飯ではないな、コーンフレイクと牛乳、この真冬に。
「ゆっくり食え・」
「ゆっくりなんてしてられないの!
10時には塾へ行かなきゃ!」
『食えよ』の『よ』も俺が言わん前に打ってきやがる。まさしく“打ってくる”ように嫁は言う。
「いや、今日は映画や映画へ行く!」
負けじと打って冬馬の手を引いて家を出た。
「大丈夫?パパ、ママの逆鱗に触れて
大丈夫?」
「さすが言語学者の息子や!
逆鱗を使える小一なんてスゴいぞ」
誉めといて反省する、そんな言葉と気遣い出来るような状況にしてた自分を。
ちょっと前、大阪から帰ってきて、俺は冬馬があんまり笑わんことに気がついた。
「たまには塾を休ませたらどうや?」
「気楽なこと言わないで!
附属は秀才揃いなのよ!
勉強が遅れて噂になったら
あなたが困るでしょ!」
「俺がいつ俺の勤め先の附属へ入れろ
と言うたんや!
お前が勝手に入れたんや!」
「わぁあああ!」
と嫁が泣いてゲームオーバー。
こんな水掛け論が毎晩。
「別に家庭に興味もなかったくせに
急になんなの?!
私に文句ばかり言って」
嫁の言うことも一理や・・・俺がおかしい・・・スケジュール表なんて存在すら知らんかったくせに。
なんとなく付き合うてた嫁さんに子供が出来て慌てて結婚して知らん間に時間が流れてた。仕事・・・好きな学問して大学に席もある。家が面白ろない日は適当に浮気もした。それが後ろめたいから嫁の言うままに洒落たトコ住んで”お受験”やママランチも見過ごしてきた。その俺が、
(この暮らしはアカン!)
大阪から帰ってきて、スケジュール表に気づいて、
冬馬の無表情に・・・気づいた。
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