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驚きのあまり声が出せない。
これまでの非現実的な出来事の数々も十分驚愕に値するものたちだった。だが、拳銃は現実感がある分、逆にリアルなものとして認識できない。
「私の目的の一つはね、時間跳躍技術の元になった論文を書いた人間、水無瀬利香の存在を抹消することなんだ」
「り……ん……」
銃口を向けられている恐怖と、全く予想していなかった展開に混乱し、声にならない声で輪の名前だけを呼ぶ。輪の表情を消した顔の、変わらない深く澄んだ瞳に心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。
そして限界状態の中で全てを理解する。なぜ時間跳躍という超常現象に自分がすぐに順応できたのか。なぜ輪が私に助言を求めることを拒んできたのか。
その時、それまで無表情だった輪が、ふっと表情を緩める。輪の目から涙が溢れ出し、澄んだ瞳に光が乱反射する。
死を覚悟しながら、なぜだかそれがとても美しかった。
「利香、今までありがとう。そしてごめんね」
輪が引き金に指をかける。その動作がスローモーションのように異様に長く感じられる。緊張の限界を超えた私の脳が眩暈を引き起こす。
違う。
これは『いつもの』眩暈の感覚だ。地面が揺れ、平衡感覚が失われる。
最後に銃声が聞こえたような気がして。
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