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今のは何だったのだろう。
今しがたまで目の前にいた、綿貫輪と名乗った女性の姿はどこにもない。あれだけの眩暈や偏頭痛があったのにそれもすっかり取れている。
具合が悪くて幻覚や幻聴でも見ていたのだろうか。そう思うことにしてタブレットに視線を落とすと、私はある事に気付く。開いているページが、声を掛けられた時の一つ前のページになっていた。眩暈がした際にスワイプでもしてしまったかと思って元のページに戻そうとしたところ、また声が掛けられた。
「お待たせ。今回は約束通り説明するよ」
そこには、さきほどと同じ一人の女性、綿貫輪が立っていた。
「綿貫、さん?」
「輪でいいよ。わたしも利香って呼ぶね」
「えっと……輪、これって一体」
「名前を覚えててくれたってことは利香も体験したんだよね。時間跳躍(タイムリープ)」
時間跳躍……?
そう言われて、先程の一ページ前に戻っていたタブレットの論文を思い出す。あのページを読んでいた時刻まで時間が巻き戻ったと考えたら。そこからまた輪に声を掛けられるまでの時間を繰り返したとしたら。理論上は辻褄が合う。
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