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結局、私は輪の助けになることはできなかった。
約七十秒の時間を何度も輪と議論を重ねたが、肝心の輪の行動原理、何を目標に行動しているかが私に教えられない以上、私も助言のしようがなかった。
「ただ待つのってこんなに辛いんだな……」
一人きりの公園で空を仰ぐ。
小説や映画の主人公なら、世界を変えるために色々と行動を起こせる。今の輪がまさにそうだ。
そしてヒロインなら、そんな主人公の助けになるような助言を送るはずだ。
私は主人公にもヒロインにもなれない。ただ七十秒間主人公の話を聞くだけの端役に過ぎない。くやしくて自然と涙が零れる。だから、輪が近付いてきているのに気付かなかった。
「利香、お待たせ」
私は涙を悟られないよう、あえて自然と輪の方を振り向くように努めた。だが、振り向いたときの輪の表情を見て、一気に涙は引いてしまった。
「輪……」
「これで、いけるはずだよ」
輪の表情を見れば、その言葉だけで何を意味しているかは十分だった。初めて会った時の澄んだ瞳を思い出す。私はただ無言で頷き返した。
あれだけ短い時間の中でできるだけ話したいと思っていたのに、今は何も言葉が出ない。輪も無言で立ち続けている。永遠のような時間を輪と見つめ合う。
「利香」
「……そうだっ」
輪に名前を呼ばれ、我に返った私は時計を見る。
十三時二十三分〇三秒。
百七十一秒の壁を、超えた。
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