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第二章 等活地獄
等活地獄は、生前、殺生を行った者が落とされる地獄だった。蚊を殺していてもだめだそうだ。それだとほとんどの人間が地獄行きになると思うのだが、閻魔様に懺悔すれば大丈夫らしい。
ここに来た人間は結局、閻魔様に懺悔したところでは許してもらえないようなもっと大きな罪を犯した者ばかりのようだ。
等活地獄は一番ましな地獄だったが、地獄であることに変わりなかった。
この地獄ではここにいる人間同士で殺し合いが行われていた。真っ暗の空の下、地面は血と炎の海だった。あたしもすぐ他の人間に腕を引っかかれて血が吹き出した。あたしの爪も相手の爪も鉄の爪に変わっていた。あたしは生前喧嘩は強かったから人間相手は割と太刀打ちできていた。ただ、人間の他に棍棒を持った鬼も襲ってきた。さすがにこれには勝てず、岩に打ち付けられ体が粉々になった。鬼は体がバラバラになったあたしに「活」と言って復活させ、まだ殺し合いに参加させる。これが延々と続いた。
ただ等活地獄は一番ましな地獄なだけあって、少し抜け穴があった。身を隠せる岩やほこらがいくつかあったし、鬼は時々酒を飲んで休憩し、追いかけて来ない時間がある。等活地獄に来てからしばらくたつと、岩陰で休憩しながら立ち回れるようになっていた。それでも一日一回は鬼に粉々にされたけど。
あるとき、地獄行きの待機部屋にいた男の子を見つけた。その子は男に掴みかかられ引きずり回されていた。あたしはその男を殴って男の子の腕を引き、岩陰に隠れた。
「あんた、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
この等活地獄は周りの人間に殺意が湧くように出来ていたが、この男の子にはさすがに殺意が沸かなかった。男の子の方も同じのようであたしに殺意は向けてこない。その子に名前を尋ねたら「シュウ」と答えた。年齢は10歳だそうだ。あたしも自分の名前を教えた後、シュウに聞いた。
「ここで子供なんてあんただけしゃん、どんな悪さしたの」
「虫を殺したよ」
「虫って、それぐらいなら閻魔さまに懺悔すれば許してもらえるじゃないの。なんでここにいるのよ」
「懺悔、しなかった」
「なんで?」
シュウは答えた。
「僕のお母さん、一番下の無間地獄にいるんだ。僕、お母さんに会いたいの。だから地獄にきたんだ」
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