マイ・プレシャス

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「ウソでしょ…」  私は今さっきフラれたばかりの女、桐原あかり。あの後、賑やかな街を尻目にうなだれながら帰路についていた。  …夢よね、うんこれはきっと悪い夢よね、…なんて溜め息混じりに思いながら。  のろのろと歩いて、電車に乗って、降りて、またのろのろ歩いて。もう何十度目かの溜め息をついた頃には、いつの間にか家の近くまで戻ってきていた。とふいに、 「おーい、あかりー」  男の声が聞こえた。  ふと立ち止まり顔を上げると、幼馴染の海野充が駆け寄ってきた。 「どうしたんだ?イヴの朝から暗い顔して」 「別に…あんたには関係ない話よ」  私はぷいと顔を背け、ツカツカと歩きだした。 「なんだよ冷たいな。せっかく人が心配してるのに」  充もついてくる。 「ごめん、今は一人にしてほしいの」 「ふーん、何かあったのか?もしかして…彼氏と別れたとか?」  ピタッ。 「いや…まさかイヴの朝にそれはないよな。バカなこと言ってすまんな」  充は気まずそうに笑い横を向くと、相手がいなくなっていることに気づいたようだ。 「あれ、あかり?」  彼は振り返り、その場で固まり肩を震わせている私の姿を確認した。 「え、あ、まさか本当に…」  すると一気にボルテージが高まった私は、 「あーもう!そうよ別れたのよ、悪い?それもイヴの朝によ。どう、みじめでしょ?」 と充にまくしたてた。 「そ、そんなこと思ってないって。本当にごめん」 「ふん、知らない!もう、あの男も充も最低!」  そう言い放つと家へと一目散に駆けていってしまった。 「はあ…」  背後から、一人ポツンと取り残された充の溜め息が聞こえた気がした。
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