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撤退するベリアンスを追うイシュクイナが、負けぬように走り込んでいく。呆然としていたファウストも、それに気付いて走った。
形勢は変わったが、ここが敵地であることにかわりはない。しかも相手は暗殺部隊も備えているらしい奴等だ。今イシュクイナの身に何かあるのは避けたい。
出遅れたファウストはそれでも追いつきそうだった。だがその横を、紅の影が走り込んで追い抜いていった。
「っ!」
「一人で突出するな、猪姫! ここは敵地だぞ!」
追いついたダンがファウストよりも先にイシュクイナの腕を掴まえる。その直後、まるで牽制するように一本の矢が王女へ向かって放たれた。だが、ダンはそれも気付いたのだろう。手甲で上手く弾き、イシュクイナを胸元に引き入れていた。
「ったく、バカか。熱くなるのも分からんでもないが、状況考えろ。今アンタに何かあったら、誰が悲しむんだ」
「……ごめんなさい」
ダンの腕の中で大人しくなったイシュクイナは、あからさまにシュンと項垂れた。
ファウストはそっと近づき、撤退を終えた戦場を見回す。騎士団の被害は軽微で、戦力は一気に増えた形だ。
「ファウスト」
「ランバート、無事か」
背後から近づくランバートに振り向き、声をかける。見ればその後ろからアルブレヒトとシウスも近づいてきていた。
「姫、無事でよかった」
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