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お母さん、あのね
目の前に真っ白な死装束を着せられたあたしがいる。
横たわる側で泣いてるお母さん。
「さっちゃん。さっちゃん、お願いだから目を開けて。一人じゃ寂しいわ」
あたしの家はお父さんがいない。死別じゃない。女の人にだらしないお父さんの浮気でお母さんは離婚した。だから母子家庭で子供は娘のあたししかいなかった。
なのに。
なのに。
『一人にしてごめんね、お母さん』
そう言いたいのにお母さんには聞こえない。
あたしが死んでいるから。
もう何も伝えることができない。悔しくて、悔しくてたまらない。なんで、あのタイミング。なんで、あたしだったの。
そこそこな大きさのトラックだった。信号無視。火曜日の特売で卵やお肉を買い、その日はパートの掛け持ちでいつもは遅くまで働いてくれてるお母さんが偶々早く帰って来れる日だった。
早く帰って偶にはお肉たっぷり、栄養たっぷりのご馳走を作るつもりで急いでいた。
信号が青になると同時に、卵が割れない程度で走る。
よく周りをみていなかった。視線は真っ直ぐ向かいの歩道にあった。
危険に気付いたのは周りの叫び声と同時だった。ぶつかる瞬間はスロー再生かと思うくらい現実感がなかった。でも、その後は一瞬。
私の身体は一度も目が醒めることなく、気が付けば宙を彷徨う幽霊と成り果てていた。
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