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◆◆◆
「また一つ幸せが逃げた」
「……じゃあ、補充します」
藤沢先輩のツッコミにもめげず、私は息を思い切り吸い込む。
果たしてこんなもので幸せが補充できるのか、という更なるツッコミには「溜息で幸せが逃げるなら、これで補充もできると思います」と答えている。
「もうそろそろ限界。理由聞いていいか?」
呆れたようにそう言った先輩に、私はグリンッと勢いよく顔を向けた。その勢いに臆したかのように、先輩の背が若干のけぞる。
「聞いてほしいなら、素直にそう言えばいいのに」
言いたかったけど、言えなかったんです! さっきまで握手会だったじゃないですか! と、私は心の中で叫んだ。
一時期よりはかなり落ち着いたとはいえ、藤沢先輩が図書当番の木曜日は混む。そして、藤沢先輩に貸出返却処理をしてもらおうと長い列ができる。
それがまるでアイドルの握手会のようなので、私は勝手にこの現象を「藤沢章臣握手会」と名づけている。もちろん、当の先輩はそんなことは知らないけれど。
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