(4) ハピメリ

3/48
前へ
/48ページ
次へ
 ◆◆◆ 「また一つ幸せが逃げた」 「……じゃあ、補充します」  藤沢先輩のツッコミにもめげず、私は息を思い切り吸い込む。  果たしてこんなもので幸せが補充できるのか、という更なるツッコミには「溜息で幸せが逃げるなら、これで補充もできると思います」と答えている。 「もうそろそろ限界。理由聞いていいか?」  呆れたようにそう言った先輩に、私はグリンッと勢いよく顔を向けた。その勢いに臆したかのように、先輩の背が若干のけぞる。 「聞いてほしいなら、素直にそう言えばいいのに」  言いたかったけど、言えなかったんです! さっきまで握手会だったじゃないですか! と、私は心の中で叫んだ。  一時期よりはかなり落ち着いたとはいえ、藤沢先輩が図書当番の木曜日は混む。そして、藤沢先輩に貸出返却処理をしてもらおうと長い列ができる。  それがまるでアイドルの握手会のようなので、私は勝手にこの現象を「藤沢章臣(ふじさわあきおみ)握手会」と名づけている。もちろん、当の先輩はそんなことは知らないけれど。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加