(4) ハピメリ

4/48
前へ
/48ページ
次へ
「で、どうした?」  何か言いたげな私の顔を見て、先輩が少し笑いながら、溜息の理由を聞いてくれた。  以前は常に不機嫌顔で、皆から遠巻きにされていた先輩も、今では度々こんな優しい顔を見せてくれるようになった。  先輩の不機嫌顔の原因は、視力が悪く、眉根を寄せて目を凝らしていたためで、眼鏡をかけている今はもうそんなことはない。  普通になった藤沢先輩。しかし、それでも落とし穴はあった。  藤沢先輩は──顔立ちの整ったイケメンだったのだ。イケメンに眼鏡、これはもうモテる鉄板と言えるだろう。  インテリイケメンとなった先輩は、一転して皆(主に女子)の人気者になってしまった。  その原因となる眼鏡を勧めたのは実は私だったので、今やどうにもならないけれど、ちょっと複雑な気持ちになってしまう時もある。  それでも、先輩がこんな風に柔らかな表情を見せてくれるのは、とても嬉しいことだと思う。誰にでもそういった顔を見せるタイプじゃないだけに、よけい嬉しい。気を許してもらっているのかと、自惚れてしまいそうになる。 「平井?」 「あっ、はいっ」  私は過去に遡っていた思考を戻し、改めて藤沢先輩に向き直る。 「あの、実はですね……」  声を潜め、私は先ほどから連発していた溜息の理由を話し始めた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加