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「で、どうした?」
何か言いたげな私の顔を見て、先輩が少し笑いながら、溜息の理由を聞いてくれた。
以前は常に不機嫌顔で、皆から遠巻きにされていた先輩も、今では度々こんな優しい顔を見せてくれるようになった。
先輩の不機嫌顔の原因は、視力が悪く、眉根を寄せて目を凝らしていたためで、眼鏡をかけている今はもうそんなことはない。
普通になった藤沢先輩。しかし、それでも落とし穴はあった。
藤沢先輩は──顔立ちの整ったイケメンだったのだ。イケメンに眼鏡、これはもうモテる鉄板と言えるだろう。
インテリイケメンとなった先輩は、一転して皆(主に女子)の人気者になってしまった。
その原因となる眼鏡を勧めたのは実は私だったので、今やどうにもならないけれど、ちょっと複雑な気持ちになってしまう時もある。
それでも、先輩がこんな風に柔らかな表情を見せてくれるのは、とても嬉しいことだと思う。誰にでもそういった顔を見せるタイプじゃないだけに、よけい嬉しい。気を許してもらっているのかと、自惚れてしまいそうになる。
「平井?」
「あっ、はいっ」
私は過去に遡っていた思考を戻し、改めて藤沢先輩に向き直る。
「あの、実はですね……」
声を潜め、私は先ほどから連発していた溜息の理由を話し始めた。
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