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しかし、私は先輩が困ってやしないかと心配になり、先輩の顔を見つめる。
先輩は穏やかに笑っていて、少しも困ってはいないようだった。とりあえず私はホッとする。
「それでは、僕はこの辺で失礼します」
先輩が再び頭を下げる。いつもは「オレ」なのに、きちんと挨拶する時は「僕」。うわー新鮮! とか言っている場合ではない。
私も先輩にむかってお辞儀をした。
「先輩、今日はありがとうございました!」
「こっちこそ」
先輩がもう一度うちの家族に会釈すると、家族全員、ほぼ同じタイミングで話し出す。
「藤沢君、いつでも遊びに来てね!」
「うちに来た時は私もお邪魔しちゃいますねー!」
「それじゃ、失礼するよ。まどかを送ってくれてありがとう」
一気に言われたものだから、先輩が呆気に取られている。ほんと……恥ずかしい。
しかし、先輩は爽やかな笑みを浮かべ、「失礼します」と言って駅のホームに向かって歩き出した。
私たち家族はその後ろ姿をしばらく見送った後、家路につく。
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