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第一章 この世にいじめは無くならないが、暖かい食卓もなくならない。
うだるようなじめじめした、雨が降りそうな夕方。学校の屋上に少女と少年がいた。告白の時だ。
黄昏時に浮かびそうな屋上で少年が口を開いた。
「あの……風滝葵さん。ずっと入学当初から好きでした!もしよろしければ、お付き合いください!」少年の名は龍神王 巧海。彼は、十七年間生きた中で初めて異性に告白をした。…………しかし……、
「はぁ!?あんたみたいな、筋肉だるまでゴリラな男に付き合えるわけないでしょ!身の丈をわきまえてから言いなさいよね!もし、付き合いたいなら…………。」と手をパンパンと叩くとクラスメイトが全員きた手元には金属バット、鉄パイプ、カッター等さまざまな凶器を持っていた。
「皆の人間サンドバッグをやりきれたら考えてあげるわ!」と風滝の合図で一斉に動き巧海はリンチにあった。永遠と殴る蹴る切るが続き、終了すれば傷だらけの巧海が横たわっていた。
「あははは、やったな!」
「動かねぇけどこいつ死んだのかなぁ?」
「まぁ死んだら死んだでいいんじゃない?」
「ゴミを掃除できて清々しい気分ね!」等まるで人として扱っておらずそれを気にもとめない。生徒全員は満面の笑みで屋上から退散した。
しばらくすると、巧海は血だらけの体を引きずりながら帰った。しかし、帰るのは家ではなく養護施設だった。そう、巧海は生まれてから、親に施設に捨てられたも同然のようにこの白鳥庵の前に置かれていた。その記憶は何度もフラッシュバックするが今はもうなんともない。
「ただいまぁ。」と言うと、二十代半ばの女性が迎えた。
「お帰りなさい…………ってどうしたのその傷!?何があったの!?」
「別に。クラスメイト全員に凶器ありのリンチにあっただけですよ。」と答えた。
「そんな怪我をまるで、どこかで転けただけみたいに言わないで!ほらっ!こっちに来て。」すると彼女は巧海をリビングに連れていき、傷口に消毒をし、包帯を巻いた。彼女の名は白咲雪子。この白鳥庵の管理長である。
「毎回毎回こんな怪我を負ってたら命がいくつあっても足りないよ!」
「別に、いつものより酷いだけですよ。もう、慣れれば普通に殴られても痛くないですし。」
「そうは、言っても…………」雪子が心配している最中、賑やかな足音がたくさん聞こえてきた。
「あっ!巧海兄が帰って来た!お帰りーって……巧海兄、怪我してるの!?」と寄り添おうとした幼い少女は花風舞彩。巧海と同じ孤児である。この白鳥庵は身寄りのない子供を預り里親を見つける施設で、里親と面接し、気に入ってもらうか預けても大丈夫な里親であれば、子供達を預けるところである。今週の土曜日、つまり明日がこの白鳥庵の子供達が卒業する日だ。
「おっ、巧海兄ちゃんだぁ。包帯だらけでどうしたんだよー。」と白鳥庵一のやんちゃっ子の島崎条治が少し小突いた。
「…………、おい……じょう……まじで……ちょっといてぇから……勘弁してくれ。」と痛みに耐えるも震えながら答えた。
「はははは、兄ちゃん情けないなぁ!そんなんじゃ、強くなれ……いったぁ……何すんだよ、白咲さん……ヒィッ!」すると鬼の形相の雪子が、
「じょう君?巧海君はやり返しもせずクラスメイトの理不尽な暴力に耐えてこんなことになってるのよ?これはじょう君が受けたこともないことだから、分からないだろうけど、凄いことでもあるけど、下手したら死んでてこの白鳥庵に帰ってるかわからないくらいの傷なの。そこに暴力をふるうじょう君に手をあげない巧海君は物凄く優しいからしないのよ?なのに、じょう君は手をあげた。私言わなかったっけ?弱いものいじめは自分を悪者に見せてしまうから駄目だって。」とその顔を見て条治は泣きそうになっていた。
「ごめんなさい!」と泣いて謝り巧海に抱きついて来た。巧海はその頭を撫でた。
「雪子さん。他の子達は?」
「神成ちゃんと青磁君はまだ部活。妃夜美ちゃんと範蛇君と六花ちゃんと至恩君は小学校のクラブ活動から帰ってるところだよ。」
「そうですか。じゃあ、食前のトレーニングしてますんで、飯できたら呼んでください。」
「駄目よ!傷治ってないのに!」
「大丈夫ですよ!」と部屋に閉じ籠った。部屋にはダンベルやバーベル、懸垂用のバーや腹筋用の土台等が置かれてあった。トレーニング開始一時間後。
「4991、4992、4993、4994、4995、4996、4997、4998、4999、5000!……はぁ……はぁ……はぁ……。」
汗だくになり、トレーニングを終えた。すると、…………コンコン。
「巧海くーん。夕飯出来たよ。」と呼びに部屋の前に雪子は立つも扉まで開けようとしなかった。それは……
「……くそぉ……なんで……なんで……俺ばっかり……くそぉ……くそぉぉぉぉぉぉ……ああああああああああ!」巧海の泣く声を聞いて、扉の前に止まってしまった。本当なら今すぐにでも巧海の悲しみを少しでも救わなきゃいけないのに。しかし、自分が言ったところで、また我慢されるだけだ。本当の親じゃなきゃこの悲しみは癒せない。その無力さに雪子も泣いてしまう。
「ただいまぁ。雪子さーん、今帰ったよー!」
「ただいまです。お腹すきましたぁ!」
「ただいまぁ!」
「ただいマンゴー!」と小学校のクラブ活動から猿谷妃夜美、因幡範蛇、柴峰六花、蛍水至恩の四人が帰って来た。
雪子は流してた涙を拭い。
「お帰りなさい!ご飯出来てるから、手を洗ってきなさいね。」と笑顔を作り言った。
「あ、神成姉と青磁兄はもうちょっとで着くってよ!」
「はーい。」と子供たちと一緒に食器を並べ始めた。
そして、……
「ただいま戻ったよー!お腹すいちゃったぁ!」
「ただいま!はぁ疲れたよぉぉ」先程の四人より少し遅れて、尾道神成と巻坂青磁も帰宅。
「二人ともお疲れさま。早かったねぇ!」
「部活が早めに終わったんだよ。それよりたく兄は?」
すると雪子は戸惑って、
「部屋にいるわ。」
「ふーん。雪姉また部屋の前で泣いたでしょ?」
「えっ?なんでわかるの?」
「同じ女としてわかるの!だいたいたく兄も罪な男よねぇ。こんないい女の人泣かせちゃうなんて。」と何故かニヤニヤして雪子に言った。
「ななななななな何よ!?それじゃあ、まるで私が巧海君に恋してるみたいじゃない!?」
「えっ?雪姉気づいてないの?みんなもうわかってるよ?それに、雪姉も雪姉だよ!好きなのに好きって言わないし、たく兄にアタック仕掛けないなんて。今日たく兄誕生日でしょ?自分の全裸姿にリボン巻いてさぁ、[今日は誕生日でしょ?だから私をプレゼントするから、私を味わって❤️]って言って抱きついて、そのまま紐をといて…………。」
「もう!?大人をからかわないの!それにどこで覚えたの!?」
「友達に恋愛に詳しい子がいるから思いきって相談したのよ!それか……」雪子に近づき、神成は一言
「今晩襲っちゃいなよ❤️」と小声で雪子に囁くと顔を赤らめて、
「もう!いい加減にしなさい!」というと一目散に逃げた。しかし、まんざらでもない自分がそこにいる。
しばらくすると、巧海は部屋から出てきて、
「騒がしいなぁ。おう、青磁、神成、帰ってたのか。」
「たく兄ただいま!」
「兄さん、ただいま。兄さんどうしたんですかその傷!?」
「いつものクラスメイトからのいじめだよ。教師たちも取り合ってくれなかったからどうしようもないんだよ。」
「兄さん。またそんなことにあったんですか!?それと、また無理してトレーニングをしましたね!兄さんには自分を癒すことはないんですか!?ちゃんと休まないと壊れますよ!」
「ああ、すまない」
「まぁ、たく兄の癒しはここにいるけどねぇ。」と口元に手を当てニヤニヤし、雪子を肘でツンツンする神成に、
「もう!早くご飯食べるよ!」と顔を赤らめて叫ぶ。
本当の家族ではないが、血の繋がりよりも濃い繋がりで繋がった絆で作られた食卓の様子は本当の家族のように暖かかった。笑い、時に冗談を言い合い笑顔の絶えない食事……そして……
「巧海<君><兄ちゃん><兄さん><兄>……お誕生日おめでとうー!」と盛大に祝われた。
「皆!ありがとう。」
プレゼントを配り食事のあとは、片付けして遊び皆寝静まった。
しかし、夜な夜な起きて巧海の部屋の前に立った雪子は顔を赤らめながら、
〈大丈夫よ雪子!これは……そ、そう!様子を見に来ただけ。別に巧海君を逆夜這いするわけではなく。様子を見に来ただけ。〉
そして、決心をし部屋の中へ。偶然にも、巧海は上半身裸で寝ていた。布団がはがれ体全部さらけ出された。すると雪子は驚きのあまりに、口元を両手でおおった。包帯で巻かれたところは隠されているが、その他にも切り傷打ち傷、火傷の跡が無数に体全体を埋めていた。
「私の知らない傷がなんでこんなに。何が管理長よ……一人の少年の……傷だらけの心にすら……気付いてあげれてない時点で……管理長失格よ!」と暫く咽び泣いた。ようやく収まると、巧海の額にキスして、
「明日こそは、巧海君の里親が巧海君を連れてってくれる。もし、次で連れてかれなかったらそのときは……」となにかを決意し、巧海の部屋を後にした。
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