第二章 女神が来たときは必ず異世界転生か転移だけど、その後世界を救っても戻れる保証はない。

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第二章 女神が来たときは必ず異世界転生か転移だけど、その後世界を救っても戻れる保証はない。

誕生日会が終わった翌朝。子供達は忙しそうに、準備をしていた。そう、今日は里親に預かられるか否か決定される大事な日だ。皆勝負服に悩むなか、巧海だけは浮かれなかった。なぜなら、巧海だけはこの十七年間、誰にも引き取られることがないからだ。どの里親に面接しようとも、何故か面接の段階で断られる。そして、ずっとこの白鳥庵で過ごして十七年。もう、この年で里親が見つからなければ、ここを出てバイトでもして一人暮らしをしようと考えていた。 ついに面接が始まった。まずは、舞彩から行って、話はスムーズに進み引き取り決定。次に条治の面接。最初は少し困っていた様子の里親二人も最後は笑顔で承諾し決定。次に、妃夜美を面接し見事に決定。続いて、範蛇、六花、至恩も決定した。残るは神成と青磁と巧海の三人。続いて、青磁の面接。最初はぎこちなかったが、自分の趣味が合い意気投合しめでたく決定。神成はなんと夢だったモデルに近づくことのできる里親の元に引き取られることになり感極まって泣いていた。最後は巧海の面接だが、期待はしてない。結果は目に見えていると言わんばかりにやる気がない。しかし、雪子は、 「今回こそはきっと引き取ってもらえるよう私も頑張るから。それともし、ダメだったら後で私のところに来て。」と少し疑問を残しながらも面接に挑んだ。相手はIT企業の社長と秘書をしてる奥さんの二人で随分厳しめの表情だった。なんとなく巧海は嫌な予感がしていた。それを横目に雪子は、 「それでは、面接を開始します。まず、巧海に聞きたいことはございますか?」と質問すると、 「では、まずその子の身体状況を見せてもらっても?」と聞かれ、有無も言わさず服を脱げと指図。巧海は逆らっては逆に怪しまれると思い服を脱いだ。すると、昨日の晩雪子が見た傷も露になった。全身を覆うほどの切り傷や打ち傷、火傷の跡を見た二人は、 「こんないわくつきの子供をよくも引き取らせようとしたな!こんなのがうちの養子になるなんてこっちから願い下げだ!」 「それにこの子例の呪われた子じゃない?この施設で唯一十年以上も里親の見つからない哀れな子って。ああ、その体を見てるだけでおぞましい!」さすがの雪子もこの言動には、 「貴方たちに巧海君の何がわかるって言うんですか!?巧海君は誰よりも強くて優しい子なんです!これまでだって一度も弱いものいじめをしたこともなく、困ってる人を放っておけないほど優しいんです!それに貴方たちには巧海君と同じことが出来ますか?集団に理不尽に殴られ、蹴られ、切られ、打たれての暴力の嵐を受けて血だらけになって帰ってきても、その傷を隠して、自分より幼い子や私を心配させないようにいつも優しい笑顔で隠して、一人で耐え続けることがあなた方に出来るんですか!?」と泣きながら叫ぶも、その二人には届かず、 「とにかく、その汚らわしいガキを引っ込めろ。もうみたくないんだよ!」とその二人は白鳥庵を後にした。雪子はあまりの人でなしを紹介してしまったことに自分への苛立ちと巧海に対して与えてしまった悲しみの二つの感情を抱え泣いた。しかし、 「雪子さん。俺は、大丈夫です。それに、今回は最後だと思ってました。」 「えっ?」 「実は今回で里親が見つからなければこの施設を出て、一人暮らしをしようと考えてました。だから、もう雪子さんが心配するようなこと悲しみにうちひしがれることは無くなります。しかし、流石に十七年間お世話になったので、出ていくまでの二日間は雪子さんの言うことを何でも聞いてあげます。ですから、何かお願い事はありますか?」 それを聞くと雪子は以前から固めていた決心をここで証明しようと思い、 「じゃあ、私の伝えたかったことを今ここで伝えるね。巧海君、私と……つ、付き合ってください!」と一瞬何を言われたかわからず巧海は、 「んんん!?ちょっと待ってください?えっ、雪子さんが俺に告白ですか!?いやいやいや、流石に俺はやめておいた方がいいと思い…………んんぐっ!」最後の言葉が止まったのは、雪子が巧海の唇を奪ったからだ。清楚なその唇は好意を寄せた相手の唇をまるで貪るかのように艶かしく奪った。 「んはぁっ。ど、どう?これで……どのくらい本気かわかった?」と、上目遣いで頬を赤く染めて聞かれ巧海は骨抜きになり、 「はい。」とその場に座った。しばらくして落ち着くと、 「あの、ホントに俺でいいんですか?」 「前から決めてたの。もし、今回でダメなら巧海君と本当の家族になるために巧海君の大事な人になろうって。それとも何?私じゃ不満?」 「いいえ。こんな俺で良ければ喜んで。」と雪子と抱き合った。しかし、妙な生ぬるい感触がそこにはあった。巧海は恐る恐るその正体を見ると、自分の脇腹に雪子の手に持たれていたナイフが刺さっていた。 「雪子……さん……なんで……。」 「あははははははは!やったぜ、ついに体を乗っ取った!はははははは!」姿が変わらずとも口調は全く違う。 「お前……ハァ……ハァ……だれたぁ……。」 「俺は、幻幽族(ゆうげんぞく)のシガノシス。この異世界にやっとこさこれたかと思えば、力が回復してなかったから回復を待っていた。本当はテメェを乗っ取りたかったが、テメェを乗っ取ってもメリットが無かったから、こいつの体を借りて意識を眠らせ回復を待っていたんだ。いやぁ、久々の自由だぜぇ。ひゃはははははははははは!」巧海は、今ある怒りの感情をたてながら冷静を保つ。今飛びかかればまたさっきの二の舞だ。さらには、いまや大事な人となった雪子まで傷つけてしまう。どうしたら……そう考えてるときだった。一筋の光が……ズドーーーン ……巧海の前に降り立った。その光の中から綺麗な純白のドレスを来た美女がスルリと出てきた……かと思えば……ふみっ。 「あら?あらららららら!?ぎゃふん!」と思いっきりビターン!とドレスの裾をふみ、顔面からこけた。美女にはにつかわしくない行動だが顔をあげ二回辺りを見渡し、立ち上がって埃を払い、 「私は、第八の大陸を守護せし光の女神ミュシェタルである。」とさっきのことを無かったかのように自己紹介をした。 「えぇとぉ……あのぅ、大丈夫ですか?」と巧海は聞くが、 「今は話している場合ではないはずでしょう!目の前の悪を葬り去りますよ!」と言われ、≪この人、さっきのことを無かったことにしてる。つーか、人の話聞けよ!≫そんなことが頭をよぎったが確かにそんなことをしてる場合じゃない。 「とにかく、あんた女神様なんだろう?雪子さんを救う方法あるのか?」 「もちろんよ!ただし、条件がいくつかあります。1つ、あなたの体が万全でないこと。2つ、あなたが目の前の大事な人を救いたいと強く願うこと。3つ、その力を使った後私の要求を聞くこと。4つ、それがどんな要求でものむこと。いいですか?」最後の2つだけ自分の欲求のような気もしたが今はそれを考えてる場合ではない。 「わかった。全部言うことを聞く。俺に救える力をくれ!」 「では、今だけ私の力の欠片を与えます。」すると、光の塊が巧海の手のひらに落ちスゥーッと消えた。その瞬間、体が光に包まれ不思議と、力が湧いてきた。 「なんか知らねぇけど、今なら救える!」確信を持ち拳を固める。 「何をごちゃごちゃ言ってんだ!死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」と飛びかかられるも、懐に飛び込み胸に拳を当て、 「力を理解する我が唱える。かの者に取り付いたあしき者を滅せよ!ライツ・ファントム・デストロイ!」と雪子の背中から紫の煙が吹き出し、 「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!せっかく……せっかく復活したのにぃぃ……。」煙と一緒に消えた。倒れた雪子を急いで抱き抱え、意識があることを確認した。 「キャー!萌える救い方ねぇーん。んもうっ、羨ましい!」とキャッキャッしてるミュシェタルを冷たい目で見つめていると、 「こほん。それでは本題だけど、さっきの決まりのうちの残り2つを聞いてもらうわ。」 「俺に何を要求するんだ?」 「まずは、貴方にお願いしたいことは私の世界に転生して世界を救ってほしいのです。」 「悪い。一気にスケールのでかい話になって胃もたれしてきた。て言うか胃が痛い。」 と突拍子に世界を救えなんて言うことは漫画の作家さんが、マネージャーに今日が締切だから今日仕上げてと言われているようなもの。巧海は疑問に思った。 「なぜ俺なんだ?いじめられて貧弱な俺は世界を救うのに不適合じゃないのか?」 「いいえ、私はこれを使ってあなたの適正を見たら悪いどころか絶対に世界を救ってほしいと思うくらい適材だったの。」とごそごそと魔法空間に手を入れてなにかを探しだして、 「異世界転生適合種族眼鏡ぇ。」と某子供に人気のアニメキャラ風に片目眼鏡を出された。 「今、青くて丸いどら焼き好きのロボットが頭の中をよぎったが気のせいか?」 「それは置いといて。この眼鏡は一度見た対象がどの種族の転生が相応しいか一目でわかる眼鏡よ!女神様お手製の便利アイテムなんだから!すごいでしょ?」 「別に。」 「反応薄いなぁ。でも、これはビックリするはずよ!なんと貴方の適正一族は、世界最強にして最恐の龍神族(りゅうじんぞく)。しかもその長の龍神王(りゅうじんおう)に転生出来るのよ!どう?これで驚いたでしょ!?」しかし、巧海の反応は、 「へぇ。」と淡白な反応であった。 「ちょ、なんでそんな無反応なのよぅ!?世界最強にして最恐よ!凄いと思わないの!?」 「いやぁ、実感ないんでにわかに信じがたいのでぇ。」 「まぁいいわ。それと転生したあとの条件なんだけど……。まず私の世界を救っても元の貴方の世界に戻れない。そしてもう一つ、戻れなくなるから、貴方に関わった人たちの記憶から貴方の存在を全て消すことになる。そして、貴方の記憶からもこの人たちの記憶を消さないといけない。」 と最後の方が聞き捨てなら無かったため、 「おい。ちょっと待て!まさか雪子さんの記憶からも俺の存在は無くなるのか?そして、俺からも雪子さん達との思い出も奪うのか?」 「ええ。当然じゃない。」 「ふざけんじゃねぇよ!やっと……やっと希望を見いだしたばかりなのに!やっと、本当の繋がりが出来そうになってたのに!こんな仕打ちありかよ!?」 「私も心苦しいの。でも、そうしないと貴方は会えない辛さに悶えることになるし、彼女だって、生きているのに永遠に会えない辛さに耐えなければならない。それが恋人なら尚更よ。」それを聞くと納得せざるをえない。 「わかった。なら、そうしてくれ。だが、最後に………。」そういうと眠っている雪子に近づき、 「雪子さん。貴方の記憶から俺は消えてしまいまうし俺の記憶からも消えてしまいますが、俺の中には貴方の想いは永遠に残ります。今までありがとうございました。」と感謝を伝えると、そっと口付けした。 「キャー!なぁんてロマンチックなのぅ。はぁ、はぁ、お姉さん興奮が止まんない❤️」と顔を淫らにし、身体をくねくねしていた。 「さぁ、早くやってくれ。別れが惜しくなる前に。」巧海の顔はどことなく寂しさがあった。そういうと、巧海は光に包まれ粒子になりやがて消えていった。しばらくすると、雪子は目を覚ました。辺りを見回すと、 「あれ?私いつの間に寝てたのかな?それはいいとして……ーーー君。あれ?ーーー君!あれ?なんで?呼びたい人の名前が出てこないよ……おかしいなぁ……名前を呼びたいあの人、忘れたくない人、忘れちゃダメな大切な人。なのに……なのに、なんで思い出せないんだろう。」と声を震えさせしまいには泣き叫んでしまった。しばらく泣いたあと、 「あれ?なんで私泣いてるんだろう?」と何事も無かったかのように日常に戻った。 一方巧海の方は、時空の空間の中で光の粒子になり転生するものの形を形成している最中だった。 「体の感覚はねぇな。だが、痛みは無いな。早く転生完了してくれよ。」 「焦らないでよ!形を作るのは大変なのよ!」 「転生状況を作ったのはおめぇだろうが!」 「うっさいわね!もうすぐ、完了するから待ってなさいよ!」 しばらくすると、 「はぁ、完了したわよ!早く世界を救うわよ!」 「なぁ、気になったんだけどよ。なんでお前の世界を救わなきゃいけないの?そして、どういう方法で世界を救うんだよ?いろいろ説明しろよ。」 「ええ、説明させてもらうわね。実は世界は私のだけではないの。私の他に七人の姉がいて、私たち八姉妹の守護する八つの島を救ってほしいの。」ミュシェタルは淡々と説明した。ミュシェタル達八姉妹はもともと一つの大陸が分裂した隕石の楔が衝突し、八つに別れた大陸を一人1つ守護していた。しかし、ある時魔族に大陸を一つ一つ支配されたが、ミュシェタルのところの島には支配する魔族が足りず、無法者の民達に島を乗っ取られてしまったのだと言う。 「で?何が原因で支配されたんだ?」 「姉たちが、千年の結界の張り替えを手抜きして中途半端な結界を張ったから。私はその姉達の不甲斐なさを見た民達の暴走を止めれず追い出されて、女神の尊厳もなし。」すると、巧海はあきれて言葉も失った。 「およよぅ😢とにかく、こんな状態だから私達の世界を救って。」と頼まれ、 「まぁ、何でも聞くって言ったしな。早いとこ終わらせるからさっさとその島におろせ!」 「女神を顎で使うなんてやつかしら。」それを聞き取ると、凄い形相で、 「なんか言ったか?」とドスの聞いた声に震えながら、 「いえ、なにも。」黙って言われたとおりにするミュシェタル。巧海は早くおろせと言わんばかりにミュシェタルを睨む。 「わかったわよ!さっさと行きなさい!」とすぐさま草原のど真ん中に下ろされた。 普通の下ろし方なら腹もたてなかったが、頭がまっ逆さまになっており地面に突き刺さった状態でやられては、流石の巧海もキレて、 「あんのくそ女神ぃぃぃぃぃぃ!世界救ったあとは、絶対しばきたおしてやる!」と決意を新たにし、歩き始めた。
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