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第三章 世界救わせる前提で転生させられても敵の軍勢との戦いは恩を受けたら断れない。
女神ミュシェタルの導きもとい、強制連行により、転生することになって今絶賛草原放浪中の巧海。とりあえず手当たり次第歩き倒しているが、目立ったものが何一つない。しかし、しばらく歩いていると……、
「ハァ……ハァ……、誰か!誰か助けてください!」
「へへへ、逃がさねぇぞ!」
「まてぇ!せっかくの上玉だぁ。捕まえて堪能してやるぜぇ。」と集団で舌舐めずりする集団のゴブリンとその集団から逃げる一人の女性。どう見ても穏やかじゃないのはわかる。
「早々にトラブルに巻き込まれるんか。まぁ、助けねぇといけねぇよな。」とその逃げ惑う女性が転けて、
「へへへ、もう逃げられねぇぜぇ。せいぜいいい声でないてくれよぅ。」やらしい手が女性の服に触れる瞬間、
「おい。その汚らわしい手を引っ込めろ。」巧海は声をかけて止めた。
「なんだテメェ!?」
「ガキは引っ込んでろ!今から大人の時間なんだからよぅ。」
「それをさせないためにお前らの前にたちはだかってんだろうが!」すると、ゴブリン達は戦闘体制に入った。女性は怯えてしまっている。
「大丈夫です。俺が助けます。」と女性を少し安心させた。
巧海は構えをとるとき不思議に思った。何故か、戦い方を知っているかのように構えをとり、
「龍神拳奥義 一ノ構え 炎龍神の構え。」戦闘体制にこちらも入った。
「なんだこいつ!?」
「構えがなんだってんだよ!こっちは数があるんだ!」
「構わねぇ!やっちまえ!」
集団で飛び掛かられたが、
「龍神拳奥義 炎龍神 溶牙炎柱拳」拳から溶炎の柱を放ち、ゴブリンの集団を一掃した。
「す、凄い。この強さ……貴方は一体何者なんですか?」
「俺か?俺は、龍神王巧海。しがない旅の武士だよ。」巧海は答えると女性の方をまじまじと見つめた。人間にしては耳が尖ってるのが気になってたり、あと背中から透明な羽が生えてたりしていたからだ。
「あのぅ、もしかして貴方はエルフ族だったりします?」と聞くと、
「いいえ、私はウッドフェアリーという種族です。あ、申し遅れました。私、ウッドフェアリー族の長、マリアヌ・フォルストと言います。先程は助けていただきありがとうございました。いつもならあの輩達は追い払えるのですが、生憎魔力が無いときに狙われてしまったので……。」と丁寧にお辞儀。
「いやいや、気にせんでください。当たり前のことを当たり前にやっただけなので。」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。とてつもなく大きな空腹の音が鳴り響く。
「あの、よかったら私の村まで来ませんか?ろくなおもてなしはできませんが先程助けてもらったお礼も兼ねてご馳走させてください。」真っ直ぐに頼まれ無下に断る理由もないので、
「ではお言葉に甘えて。で、村はどこにありますか?」と聞くと、
「あの山の麓です。」と頂上付近を指差され、巧海はある種の絶望感にさいなまれようとした。それもそのはず空腹の上、山を登らねばならないのだから。
「ちょっと、山を登ることになりますが大丈夫でしょうか?」折角お礼をしてくれるのを断ってしまうと、気分が悪い。しかし、この山を登るには空腹すぎる。空でも飛ばない限り登るのは今の状態じゃ無理だと判断した。そこで、
「マリアヌさん……でしたっけ?俺に捕まってもらえますか?死に物狂いで捕まっててくださいね!」とマリアヌを抱き寄せるどころかお姫様抱っこした。
「何をなさるつもりですか!?」
「今から山まで飛びます!」マリアヌは慌てて、
「いやいやいやいや、無理ですよ!?空を飛べそうな種族でもないのにどうやるんですか?」
「まぁ、見ててください!龍神拳奥義 風龍神 風翔飛登連弾。」足に風を纏わせて飛び上がり、落ちようとすると、右足で空を蹴り次に左足で交互に蹴り駆け上がった。
すると、マリアヌはふと疑問に思った。
[この方もしかして……いや、あの一族は全滅してるはず……でも一族特有の技。間違いないかも。]とそう思ってるうちに村の門の前に来た。そこで、
「あの、貴方はもしや……龍神族の生き残りでは?」と聞くと、
「え?ああ、確かミュシェタルがそんなこと言ってたなぁ。さらに、その一族の長龍神王だとかも。」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!そうだったんですか!?そうとはつゆ知らず申し訳ありません💦」
「ちょ、そこまで頭下げんでください!?なぜそこまでするのです?」
「実は、私たちの村は先程のゴブリンの盗賊に襲われたことがあります!そこを救ってくださったのが、女神ミュシェタル様なんです!ミュシェタル様は予言を致しました。近々、異世界からの転生者がこの大陸を訪れ残り七つの大陸も救ってくれるであろうと。まさかあなた様がその人物だったなんて。」巧海はこう思った。
[あんのダメな女神通称駄女神ぃぃぃ。俺に大陸を救わす前提で俺のこと転生させやがってぇ!]思いが顔に出てきたせいか、マリアヌが怯えていることに気づいた。
「あ、ああ、すまない!思いが顔に出るタイプでして。」
「いえ、気にしてませんから大丈夫ですよ💦ささっ、早く村に入ってくださいまし。」促され村に入った。
フィアルロ山麓村
フィアルロ山の麓にある村で特産物である"マイカイアジカワリダケ"という、噛めば噛むほど味を変え、出汁もその時期に採ったものによって風味やコクも変わるというキノコで生計を立てている。珍味であるためそこそこ繁栄していると思われるが、以前ゴブリンに襲われて、家等がめちゃくちゃになっていた。
「ごめんなさい。こんなみすぼらしい姿を見せることになってしまって。」
「気にせんで良い。それより、お前さんの家はどこだ?」
「こちらです!」つられて歩いていると、
「マリアヌ様ぁぁぁぁぁ!」と村の少女が駆け寄ってきた。
「マリアヌ様!お帰りなさいませ!」
「こら、キリナ!ビックリしたではありませんか!」
「長旅でお疲れでしたでしょう?そして……そちらの御仁は?」と尋ねられ、
「こちらの方は私を盗賊から守ってくださった龍神族の長、龍神王の巧海殿です。これから、私の家に招待するところよ。」
「よろしくな!」
「は、はい。キリナ・メルスと言います。マリアヌ様の使いです。」二人に案内され、ようやく到着した。しかし、まだ復興中のためボロボロだ。
「すみません。休めるところがなく💦」
「気にしすぎだって。食うところと住むところさえあればあとはなんとかなるさ!」
二人は食事の支度を始めた。食材を切る包丁の音が心地よく響き、ことこと鍋で煮込む音は徐々に食欲をそそる匂いを放ちながら空腹感を刺激する。しばらくすると、完成したものが運ばれてきた。
「さぁ、どうぞ!マイカイアジカワリダケのクリーム煮春仕立てです!」とクリーム煮のコクのある香りの中に春の香りもする。おそらく、春時期に採れたマイカイアジカワリダケの香りだろう。
「旨そうだな!じゃあ、いただきます!あむっ。」しばらく一口目を噛みしめ堪能すると、
「うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!噛めば噛むほどキノコの味が変わる!さらにキノコだけじゃない、スープもその他の具材も、このキノコと一緒に旨味の調和を奏でている!そして……めっちゃ腹と心を満たしてくれる。」と味わいながら涙を流した。マリアヌ達はビックリして巧海の顔を見た。
「ああ、すまない。こんな暖かい食事を食べたことに感動してて……。」そういいつつも、
[この暖かい感じ、前にも体験したことがある。しかし、どこで……?]と前にも言ったように転生する際に、ミュシェタルから以前の世界での記憶を消されている。感覚はあっても正確に思い出せないのだ。しかし、今は美味な食事を振る舞ってくれた感謝でいっぱいだ。涙を拭い食事に没頭していた。
「フフフ。そんなにおいしく食べて頂けて嬉しいです!頑張ったかいがありました!」三人で和気あいあいとしていると、
「マリアヌ様ぁぁぁぁぁ!?大変です!」
「どうしたの?」
「ゴブリン達が……」
「またあいつ等なの?」
「いえ……それだけじゃないんです!オークの軍勢を引き連れて、こちらに向かってます!」その報告に、マリアヌ達は動揺し慌てた。しかし、巧海は冷静に、
「そんなに凄いことなのか?」
「はい!本来なら強さ的にオークがゴブリンを引き連れることはあれど、ゴブリンがオークを引き連れることはないのです!しかも相当の数を連れてるとなると……」
「なるほど、裏で操ってるやつがいると疑った方が良いな。数はどのくらいだ?」
「およそ……三十万と見た方が良いかと。」
巧海は少し考えた。
[三十万かぁ。膨大だよなぁ数が。でも、見る限り、戦力になるのはマリアヌただ一人。厳しいなぁ。]
「わかった。その討伐俺一人に任せてくれねぇか?」とたずねるとマリアヌは首を横に振り、
「いけません!貴方は私の命の恩人なんですよ!?その方をみすみす三十万の軍勢の餌食になど出来ませぬ!」
「しかし、多分今戦力になるのは俺とマリアヌだけだ。さらに、マリアヌが死ねば村人も死ぬ。だからこそなんだよ。余所者の俺が出れば、何も問題ねぇから。それに、村の折角の特産品使ってご馳走してくれたんだ。恩をここで返させてもらうぜ!」
そして、巧海は前線に出た。
その背中をマリアヌ達は見守るしかなかった。
一方その頃、進軍してる軍勢は数は約30万。しかも、人間は一人もおらずオークとゴブリンだけの部隊である。その中に高級そうなローブを纏ったゴブリンと鎧武者のように甲冑を全体に装備したオークがいた。この二体が軍勢を率いているゴブリンロードとオークナイトキングだ。
進軍しているうちに一体のゴブリンがゴブリンロードに報告。
「ドレイズ様。報告がございます!」
ドレイズは顔まで隠したフードの中から片目を覗かせ、
「なんだ?」
「はっ!我らが進軍先に妙なものがおりまする。それも、武人のようなものが。」
オークナイトキングも気になり、双眼鏡を取り出して、進軍先を見た。なんと、前線に出た巧海がそこに仁王立ちしていた。しかし、鼻で笑い、
「ふんっ。ただの人間の餓鬼じゃないか!あんなアリンコ、我が軍で容易く踏み潰してくれよう!」さらに、進軍しようとするも、ドレイズが止めた。
「待て、グレド殿。何か秘めているやもしれん。僅かながら、あの小僧に魔力と異形な種族の気配を感じる。」
「成る程。では、我々で交渉でもしてみよう。もし配下に加わるなら命だけは助けよう。しかし、逆らったらそのときは……。」お互い暗黙の了解で頷き巧海の元に向かった。しばらくして、ドレイズとグレドの二人が巧海の近くに来ると、防具と剣や槍などの武器を装備したオークとゴブリンの軍勢が囲うように位置を配置した。
「我は、ゴブリン軍勢を従えしゴブリンロードのドレイズ・エガレスト。そして、こちらがオークナイトキングのグレド・アルファノン。少しばかり貴殿に話をしたく、近づかせてもらった。貴殿の名と目的を述べよ!」
見ず知らずの相手に命令口調で喋れと言われて少々カチンと来たものの冷静を保ち答えた。
「俺は、龍神王巧海。しがない旅の武士である。俺は、ある村の長殿よりお前らの進軍を阻止してくれと頼まれた。」
すると、オークやゴブリン達は野次を飛ばし、ドレイズとグレドもカチンと来て、
「言うではないかこのクソガキ!我々をなめてるとどうなるか教えてやる!」グレドは持っていた、鎖で繋がれた巨大鉄球を振り回し、巧海に向かって放つ。しかし、巧海はそれを難なく片手で受け止め、グレドに投げ返した。
「のわっ!?このガキぃ。まぐれではあるものの返せたことを褒めてやる。」
「調子づいてるのも今のうちだぞ豚ぁ。」
二人が戦ってるうちに、ドレイズは強力な魔法の詠唱を終わらせ、
「光の中にある七つの影に撃ち抜かれよ。シャドウ・ペイン。」白き光の中から黒き光の矢が巧海を襲う。しかし、
「龍神拳奥義 鋼龍神 鋼帝絶壁」と身体を鋼鉄以上の硬さに変え、その矢を防いだ。
「何!?我のシャドウ・ペインを簡単にしのぎ、グレド殿の鉄球すらも片手で返す。お主は本当は何者だぁ!?」
「俺に勝てたら答えてやる。まぁ、無理だろうけどなぁ。」この二人、いやこの軍勢を持ってしても勝てないだろうと思い、余裕の表情の巧海。それとは相対的に二人の顔は暗がり、苦渋の表情を浮かべた。
「くそっ!ドレイズどうする?あいつに勝つのは俺たちじゃ兵を無駄に浪費するだけだぞ!」
「しかし、ここでおめおめと逃げてたまるか!それよりここからどう倒すかを考えなくては。」と二人が考えてるなか、巧海も考えていた。
〈どうにもおかしい。こいつら最初に言った言動から考えると名前は良いとして目的を聞いてきた。普通立ちはだかったら邪魔する以外ない。なのに、それをわざわざ聞いてきた。それにもっと言えば、ゴブリンの盗賊たちにあれほどの村の破壊は出来ない。せいぜいが物品を盗むか誘拐くらいだ。その頃はオークと共闘した記録はない。だとすると、この戦い仕組まれた可能性がある。〉
「なぁ、お前らは誰の頼みでここに来ている?」と巧海が聞くと、
「我らは、あるものに頼まれたのだ。この村で我ら一族を脅かすものがいる。だからこそそのものを排除して欲しいと。」
「誰にだ?」
「顔は見えなかった。しかし、声は女の声であった。」
「それに、あの羽はウッドフェアリー族特有のものとは違ったが。」
巧海は少し考えると、
「お前ら、ここで引いてもらえないか?俺が技を放つからそれにびびって逃げたってことにしてくれれば俺がそれを解決する。」
「できるのか?」
「ああ。お前らが退散するふりをしてくれたらいい。」
二人は考え決断した。
「良かろう。」
「我も同意する。」
「では、行くぞ!龍神拳奥義 地龍神 巌山龍起 」地面に拳を放ち、岩山を発現させそのタイミングでドレイズ達も一斉に退いた。
[さぁて、これで逃げてくれたな。あとは、この騒動を起こした黒幕を見つけてそいつを潰すだけだな。]
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