赤色の絆創膏

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 幼い頃から野球が好きで、小学校時代はむろん、中学に入学しても当然のように野球部に入部した。  でもそこにとても嫌な先輩がいた。  後輩をしごくのが趣味みたいな奴で、『練習』と言い張って無茶な要求を押しつけてくる。  朝練の前に校庭を百周走れとか、取れないような速度のノックを捕球しろとか、やらせることは無茶だらけだ。  でもその先輩はやたらと口が上手くて、言いくるめられた先生や他の上級生達は、いじめ同然のしごきを『熱意ある指導』と信じ切っているから、誰に何を訴えても俺達の声は聞き入れてもらえない。  そんな状況だから一人、また一人と同級生が部を去り、残った俺達も、いっそ学校の野球部を止めて、どこかのリトルリーグに入ろうかと話すようになった頃、買い足すように命じられた備品の整理中に、一箱丸ごと赤色の絆創膏が入っている箱を見つけた。  以前何かで、食品の製造工場では商品の中に異物が混入してしまった時、それを見分けやすいよう、手袋や絆創膏はあえて青い物を使用していると聞いたことがある。だけど赤色の物があるなんて初耳だ…いや、正確には初めて聞いた訳ではない。  赤色の絆創膏。その話は以前聞いたことがある。 「これって、もしかして噂のアレか?」  仲間の一人が絆創膏を手に取り、恐る恐る眺めながらつぶやく。  先月、しごきに耐え切れずに部を止めた同級生が、ネットで見かけたと言っていた話が記憶に甦る。  絆創膏はたいてい、あまり目立たぬよう肌色をしている物なのに、何故か稀に、赤い色の絆創膏だけが詰まった品が売られていることがある。  箱は他の物と変わらないのに、中身は、外側の包装紙も絆創膏自体も、剥離紙さえ全部真っ赤な色をした絆創膏。普通に使えばごく当たり前の絆創膏だけれど、この品は、使用時に誰かの顔を思い浮かべると、どういう訳か、相手の体の同じ場所に同じ大きさや深さの傷ができるという。  ただしその傷は、自分の身体に貼りつけた絆創膏が勝手に剥がれ落ちるまでは絶対出現しないらしい。 「そんな話、ある訳ないよなぁ」  絆創膏を手にした奴が口にする言葉に、みんな笑ってうなずいた。
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