コインロッカー

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 子供の頃からずっと大切にしてきた熊のぬいぐるみ。目とおなかが真ん丸で、見たまんま『まる』と名づけた。  家にいる時はもちろん、遠出の時なども手放さず、いつも一緒にいるのが当たり前だったけれど、中学生にもなって、いつまでもこんな物を持っているのは恥ずかしいことだと、学校へ行ってる間に母親に捨てられた。  辛くて悲しくて、一年以上経った今でも『まる』のことを引きずっている。  無理だと判っているけれど、もう一度あの子を取り戻して抱きしめることができたら。  そんなことばかりを考えていたけれど、ある日、それが叶うかもしれない噂を聞いた。  空のロッカーに鍵をかけ、利用期限ギリギリの日まで放置する。その状態のロッカーに、表示されている金額のお金を入れても鍵が開かなかったら成功。追加であと百円を投入すると鍵が開き、ロッカーの中に失くした物が入っているというのだ。  ただこの話には一つだけ注意点があった。それは、何があっても絶対にロッカーの利用期限を超過してはいけないというものだ。  自宅から一番近い位置にあるのは駅のロッカーだ。学校帰りに駅に立ち寄り、使用方法などが書かれた注意書き確認する。  ここのロッカーの使用期限は四日間。これだけはしっかり頭に入れておかないと。  ぬいぐるみは一番小さなサイズのロッカーに充分収まるものだから、空いている所に表示金額分の百円玉を入れ、鍵をかけた。  注意書きに、ここのロッカーは午前零時を過ぎると延長料金が表示されると記されている。つまり、四日で千二百円だから残りの金額は後九百円。そこにプラスしてもう百円。  もしも聞いた話がただの噂だったら、お小遣いを千円以上も無駄にしてしまうことになる。でも逆に、この金額で『まる』が戻ってくるなら安いものだ。  どうかあの噂が本当でありますように。
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