白の砂浜に向けて

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 ここよりもっと住みよい大陸がある。  そう言って、何人もの人間が船に乗り、ここを去った。  排気ガスの臭いがしない。交通事故で人が死なない。不当な待遇を受けない。そもそも仕事がない。硬貨という概念が存在しない。賭け事もなければ喧騒だってない。税金が存在しない。食べ物に、衣類に住居に困らない。  その大陸には、障害物など何もない。白き大地と白き海。白の草原に、白の空。風が心地よくひんやりとして、人類を幸福へ導くという。  こんな物さえ除ければ、人と人との壁は取り払われ、それでいて、確固たる己で在り続けられる。そう信じた大勢が、黒く濁ったこの海を、ゴミの浮く、アクの湧くこの大陸を後にした。  ──ああ、きっと。  その白き大陸も程なくして、人間達が踏み荒らし、武器が生まれ、血が流れ、どんどん色を変えるだろう。  伝説など幻想であり、迷信であり、人々はそれに気付かない。  そしてまた、住みよいときく大陸へ船を出す。遠い遠い旅路を行き、何かを殺していることに気が付かない。  あちこちを土足で踏み荒らしながら、己を棚に上げながら、省みることすらしないまま。  そんなものは、ゴミが浮き、アクの湧くここと、何が違うだろう。そんな未来を望み、築き上げたのは自分達だ。脇目もくれず忘れられる、そんな両目に何が映る。  巨船を見送る。随分と小さくなっていった。  ああ、汚れを知らぬ、どこかの白き砂浜へ。  腐り落ちた者達を、今度はどこまで許すだろうか。  
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