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第四章 恋なんてもうしないと思っていたけれど
とても爽やかな人だな、というのが最初の印象だった。
「古之屋さん、おはよう!」
彼は、性格は明るい方とはいえ地味である私にも、口数の少ない大人しい子にも、ちょっと怖いやんちゃな人にもリーダー気質の派手な子にも、頑固で厳しい先生にも毎日誰にでも挨拶をする。
最初は挨拶を返していなかった人も気づけば自然と挨拶をするようになっていく。それは分け隔てない彼の優しさが伝染しているからだと私は思っていた。
まるで心地よさを運ぶ風のような人。
彼に挨拶されると、どんなに憂鬱な気分も爽やかな風に流されて元気になる。
小さく『おはよう』と返すと嬉しそうに目尻が垂れる。その顔を見ると心が温かくなる。
そんな彼だから、彼の周りには常に人がいた。
みんなきっと私と同じように彼がもたらす心地よさに魅かれているのだろう。彼の周りはいつも賑やかで、まるで教室を明るくしてくれる太陽みたいだった。
爽やかな風と、あたたかな太陽という両属性を持った人。
私は気づけば毎日彼の事を目で追うようになっていた。
彼が笑っているのを見るだけで心はぽかぽかだったし、同じ空間にいられるだけでよかった、私の淡い恋心だ。
彼とどうにかなりたいなんて全く思っていなかった。
だって、彼は風と太陽の人。風は掴めないし、太陽は雲の上の存在だ。地味で陰に隠れた存在の私なんかとは違うから。
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