第四章 恋なんてもうしないと思っていたけれど

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 噂に、っていうか、合コンや大学サークルの飲み会とかで、強いお酒を飲ませたり、それこそ変なものを混ぜて酩酊させて悪戯をするっていう事件が実際にあるってことは私も知っている。SNSをやっていると、色んな話やニュースが流れてくるしね。  でも、そんなの私とは無縁だった筈だ。  自分には関係ない。ノンフィクションのようでフィクションのような、絵空事だってそう思っていた。  なのにそれが実際私の身に起きたらしい。未遂だったし、私は覚えていないけど、画面の向こう側ではなく本当に。  だってそうでしょ。今まで地味でオタクな私は見向きもされなかった。  声を掛けられても街頭アンケートくらいだ。  それが昨日思い切ってイメチェンをして、生まれて初めてナンパされて──正直私も舞い上がっていたけど、あのチアキくんがだなんて信じられない。  だから、急に怖くなった。  もしもマルスがいなかったら、私はどうなっていたんだろうって。 「ああ、モトコ……」  傷ましげな声が落ちてくる。  私の恐怖を感じ取ってくれたみたいだ。マルスの長い紫色の髪にさらさらと覆われて、私は逞しい腕の中に閉じ込められた。  
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