いぬ

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何かを忘れている気がしたが、なんだっただろうか。 普段からしっかり者とは言いがたい性格の私は、その日の朝も考え事をしていた。 鞄の中身を確認するが、これといって忘れているものは無いような気がする。 首を捻ったが、思い出せないものは仕方が無い。 私は諦めて登校する事にした。 私の通う高校は自宅から自転車で30分程だった。 文化部には少し遠い距離ではあるが、地方の高校などそんなものだろう。 実際家から一時間近くかけて通う子も珍しくなかった。 一時間目の準備をする段階で、あ、と忘れ物の正体に気がついた。 三時間目にある数学の小テストの範囲を書いたメモの事だった。 またやってしまったか。 少し後悔に苛まれたが、嘆いてもどうしようもない事を経験上知っている。 気持ちを切り替えて教科書とノートを鞄から出すと、隣の席に座る森田が声をかけた。 「どうした?」 「小テストの範囲のメモ、家に忘れてきた」 「俺の見るか」 「ごめん」 「あとでジュースな」 森田に適当な返事をしつつ、目の前の情報を急いで書き写した。 これで何とか再テストは免れる筈だ。 ひとまず安堵したはずだったが、それでも頭のどこかに靄がかかっていた。 まだ何か忘れているのではないか、と。
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