いぬ

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昼の時間、約束の通り森田に缶ジュースを手渡した私は持参した弁当を口にした。 忙しい父母に代わり朝食と弁当を作るのが私の役割で、今日の弁当もそれだった。 味付けに目新しさの無い地味な弁当をそそくさとかきこんで、私は図書室へ向かう。 図書室へは毎日のように足を運んでいる為、図書委員とは顔見知り程度の仲になっている。 他に日参する生徒も余りいないので、くつろぎながら昼の時間を過ごすことが出来た。 今日は何の本を読もうか。 適当に書棚を散策すると、生物図鑑のコーナーに来た。 『身近な動物の飼い方』という本のタイトルに、私は今朝のように小さくあ、と呟いた。 忘れていたのは、犬のことだった。 何のことは無い。 今朝見た夢の話だ。 一匹の柴犬に近い雑種を、家の裏に鎖で繋いで飼っている夢だった。 餌やりや散歩など、犬の世話は私が一切を行う事になっていたのだが、夢の中の私はそれをずっと忘れていた。 ふとした拍子に思い出した私は慌てて家の裏に出る。 すると、鎖に繋がれた犬は、酷く痩せこけ身体に蛆を沸かせ、腹には穴が穿たれて内臓を腐らせながらも私を待っていた。 慌てて器に餌を盛ると、その犬はがつがつと食べては腹から未消化のものをこぼしていた。 その後夢の中で私がどうしたかは知らない。 明け方にまどろんで、目覚まし時計が鳴るまで再び深い眠りについた筈だ。 今日、ずっと何か忘れている気分になっていたのはこれだったのか。 実害のない「忘れもの」だった事に、私はようやく気を落ち着かせることが出来た。
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