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重い気分をどう払うかも分からず、のろのろと自転車を漕ぎながら帰路に着く。
あの犬と見間違えた場所まで来ると、自然とその布切れに目が行った。
見つめていたのはほんの数秒だろう。
しかしそれを不審に思った家人が、訝しげな目を私に向けた。
私はそそくさと目をそらしてその場を離れようとしたが、声をかけられてしまった。
「家に何か御用ですか?」
そう聞かれると、下手に誤魔化す術も知らなかった私は正直に言うしかなかった。
「いえ、この垣根にかかっている布が、犬に見えたので不思議だと思っただけなんです」
そこの家に住む女性は、不思議そうに首をかしげた。
私は再度女性に深く謝罪し、家に帰った。
自室のベッドに横たわると、当然ながら強烈な睡魔に襲われた。
眠りの浅さと緊張感で、自分が思った以上に疲労しているのだろう。
眠りたくないと思っていても、私は知らず、目を閉じていた。
夢には、案の定あの犬がいた。
私は家にある犬の餌を器に盛り、犬の前に差し出す。
犬はがつがつと餌を丸呑みし、やはり腹の穴からぼとぼとと、喉を通した餌を地面にぶちまけていた。
そしてまた、食べ物が足りないと怒気を隠さず吠え立てた。
昨日までの夢と違ったのは、犬が鎖に繋がれていない事だった。
犬は私に襲い掛かり、指を齧り取り、目を毟り取り、思う存分に私を蹂躙した。
好き勝手に私を齧っていた犬だったが、やがて食べることに満足したようだった。
だが今度は、ぴちゃぴちゃと音を立てながら私の血を舐めまわし始めた。
そして私の尻の臭いを嗅ぎ、後ろ足の間をこすりつけるようなしぐさをした。
私は必死になって払いのけようとするが、払いのける為の手足は残っていなかった。
芋虫のように土の上をのた打ち回り、どうにか逃れようとする。
しかし犬は意にも介さず私の衣服を噛み千切った。
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