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夢はここまでだった。
私は起き上がった途端トイレに駆け込み嘔吐した。
次に寝たら、もっとおぞましい事が起こる。
そう思うと寝ることが怖くて怖くてたまらなかった。
私が早退したと聞いて、母が仕事を切り上げて家に帰ってきた。
予想以上に酷い顔をしていたのだろう。
私はすぐさま病院に連れて行かれた。
夢見が悪いというだけでは医者も判断を下せず、薬も貰えずに自宅へ帰された。
母は心配してあれこれと世話を焼くが、それに甘えられなかった。
寝るのが怖い。
あの夢の続きがきっとやってくる。
下手に心を落ち着かせると、寝てしまうかもしれない。
私は母を振り切り自室に引きこもった。
カーテンを締め切り暗くした室内で、私は眠らないようにぐるぐるとひたすら部屋を歩き回っていた。
何時間そうしていたのか、ついに足取りが覚束なくなり、机の上の物を巻き込みながら床に崩れ落ちた。
重なったノートの隙間から、一昨日の小テストの範囲を書き記した紙が出てきた。
こんな所にあったのかと引っ張り出す。
すると、紙と一緒に犬の写真が出てきた。
覚えのない犬だった。
私は犬というだけで嫌悪と憎悪が沸き立ち、咄嗟に筆入れにあったカッターでその写真を切りつけた。
何度も何度も、顔も身体もぐちゃぐちゃになるように切りつけた。
写真としての原型も留めない状態まで切り裂いた後の事は覚えていない。
気がつけば布団に包まって、胎児のように丸く寝ていた。
あの犬の夢は見なかった。
「おはよ」
「…調子出たみたいだな」
「うん。森田は、ちょっと元気なさそうだけど」
「…うん、ちょっとな」
次の日の教室には、いつもとは違い目の下に隈が出来た森田の姿があった。
「何かあったの」
「聞かせられる話じゃねえけど」
「でも」
森田は言いにくそうにぼそりと呟いた。
「夕べ、俺の家の犬が殺されたんだ。ぐちゃぐちゃに引き裂かれてた」
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