1.それぞれの日常

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 ◇ ♀ 「お疲れ様でした」  軽く会釈を残し、あたしは職場を後にした。  夕食の材料を買い足すため、最寄り駅のスーパーに寄ってから帰ろう、と考えていた。  どこを眺めても人ばかりの交差点。信号待ちで足を止め、腕時計の針に目を落とした。 「--ねぇ。今月号のミュージカ見た? FAVORITEの特集」  女子高生のはしゃぎ声が後方で響いた。まただ、と思ってしまう。 「そうそう。新曲のPVがヤバくてさ~。Hinokiのあの顔は反則だよねー」  隣りに並ぶOLと思しき女性は、電話片手にニヤついている。 「あと二週間ちょっとだよね? クリスマスライブ! 超~楽しみ~っ!」  前方でかしましい声を上げる三人組の女子大生。  本当に凄いな、有名になったんだな、と。もはや溜め息しか出てこない。  今やどこをどう歩いても彼ら、FAVORITE(フェイバリット)の話題に遭遇する。否が応でも耳にするHinokiの名前。  近年、爆発的に売れている四人組のロックバンドで、そのボーカリストの一人だ。
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