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これまでは松葉杖の存在に目を奪われて気づけなかったが、彼女の右足が裾から出ていないのだ。
(そうか、座ったら足がないのが目立つから立って…)
彼がそのことに気づくのとほぼ同時に、マイコから声をかけられる。
「じゃ、じゃあ…行きましょう、か」
「…え?」
不意を突かれた翔太の思考が止まる。
どこに行くのかと思い、彼は視線をマイコの顔へ移した。
そこでようやく、今自分がなぜ彼女と会っているのかを思い出す。
あわてて返事をした。
「あ、ああ…そうだね」
思わず出した声には、心の動揺が起こす震えが乗ってしまっている。
これに気づいた翔太は、ごまかすためにこう言いかけた。
「まずは、どっかの店でメシでも…」
「そ、それはコンビニで買っちゃいませんか? 早く…中に入ってしまいたい、です」
「え? 中に、って…」
「こっちです」
そう言って、マイコは歩き始めた。
「あ…」
翔太はすぐについていくことができず、ぼんやりと彼女の後ろ姿を見つめてしまう。ここでも、彼女の右足を見つけることはできなかった。
(足がない女なんか、抱けるか…!)
置いていかれたついでに、帰ってしまおうか。翔太は体を駅舎方向へ向けかける。
だがその目が、マイコの背中から離れない。
「……」
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