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彼女は杖を使っているため、普通の人間よりも大きく体を揺らしながら歩いている。
振り返るにもすぐにというわけにはいかず、止まってから再びバランスを取り直さなければならないだろう。
「………」
そんな彼女が、振り返った時に誰もいないと気づいたらどう思うだろうか。
翔太はふと、そんなことを考えていた。
(くそっ)
足が、動く。
3秒後、彼はマイコの隣に立っていた。
笑顔を見せつつ、彼女にこんなことを言う。
「マイコちゃん速い速いー! 置いてかないでよ」
「え? あ…す、すいません」
「声からはそんな感じしないけど、マイコちゃんって意外とせっかち?」
「ど、どうなんでしょう…自分では、わかんないです……」
戸惑っているのか驚いているのか、マイコの声は尻すぼみになる。
そんな彼女に明るく話しかける翔太の目が、彼女の右手を見た時に動きを止めた。
(まあ、抱く抱かないはともかく、話くらいは……)
心に浮かべた言葉も、そこで止まる。
彼女の右足に続いて、松葉杖を持つ右手も何かおかしいことに気づいた。
マイコが杖を持つためにひじを曲げているせいか、翔太が彼女の右足に目を奪われていたせいか、これまではわからなかった。
だが彼女のすぐ隣に立ったことで、今ようやく気づいたのだ。
(…短い)
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