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マイコは、電話ボックスのそばに立ったまま動かない。
ベンチへ向かおうとする素振りさえ見せない。
(宗教とかなんかの寄付とか…オレをだましに来たってんなら、もっとだらけててもいいよな…オレが着いてるの、まだ気づいてないだろうし)
マイコからのメールに、翔太はまだ返信していない。ふたりで決めた時間まで、まだ余裕がある。しかも翔太の姿はまだマイコに見られていない。
それらのことが積み重なっても、彼女が立ったままでいるという事実。
これが、翔太に再び決断させた。
(どうせしょっぱなから賭けみたいなもんだったんだ。いよいよ無理ってなったら、走って逃げりゃいい…か)
彼はゆっくりと駅舎から出る。
たった今電車から降りてきたようなフリをして、電話ボックスへ向かい始めた。
(それに、足が悪いヤツをほっといて帰るってのは…寝覚めが悪くなりそうだしな)
やがて彼の接近に気づいたマイコが、小さな動きで会釈する。それを見た翔太は笑顔を浮かべ、さわやかに声をかけた。
「はじめまして。ヨウです」
「は、はじめまして…マイコ、です」
マイコの声は震えている。緊張しているようだ。
それを感じ取った翔太は、おどけた口調でこう言った。
「いやー、最初見た時はびっくりしたよ」
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