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私の言葉が彼の心を抉ってしまったのか、彼はうつむいたままだ。
けれど私は彼からの言葉を待っている。
いつも先に言葉を言うのは彼だからだ。
――でも。
「――ユリネ。俺、もう奏者を辞めようと思っているんだ」
そのアカツキが急に妙なことを言い出した。
「なんで? あなたほどの綺麗な音を奏でられる人はこの宮廷内にはいないのよ? まだまだ未熟な人達ばかりだし。それにそんな簡単に辞めさせてくれるはずがないでしょ」
「だろうな。でも俺はユリネが躍る姿を見る――その一心で奏者になったんだ。他の奴等に奏でる音なんかない。だからユリネが踊れないのなら、俺も音は出さない」
「……全く、いつまで経ってもお子様ね」
私は右手に三本しかない指の内の一本でうつむいた彼の額を軽く小突いた。
小突かれたことでアカツキは驚いた――二つの意味で。
「ユリネ、何をしているんだッ! そんなことをしたら――」
そう、私の身体は“衝撃”が加わると砂に変わる速度が速まる。
何か軽い物を自分で持つ程度ならば平気だけれども。
今のようにアカツキの額を小突くとなると、その分だけ病は進行を速める。
だからアカツキはこうして驚いているし、私にお説教をしている。
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