煙の向こうに見えたのは

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 その夜は、ご馳走だった。  両親と叔父と駿で、食卓を囲む。叔父の土産だという、怪しげなベーコンも食卓に載った。 「それで、俺が店に入った途端じいさんが白目向いてさあ……」  叔父は機嫌よくビールを流し込みながら、旅先の話を語る。  いつもしかつめらしい父も、ひっきりなしに笑っている。  食事がひと段落ついて、酒を飲まない駿が手持無沙汰になった時。父がふと真面目な顔になった。 「相変わらず楽しそうだが、このままでいいのか?」  昔ほどうるさくなくなったとはいえ、父はたまにこうして弟を諭そうとする。父が切り出すこの話題が、駿は苦手だった。非日常から日常に戻されるような、嫌な感じがするから。 「何度言わせるんだよ、兄さん。俺はこのまま生きて、旅先で適当に死ぬのが理想なんだ。兄さんには迷惑かけないから、堪忍してくれ」 「と、言ってもな」 「人には向き不向きがあるんだって。兄さんが俺みたいな風来坊になれないように、俺も兄さんみたいに真面目になれないのさ」 「…………」  言い返す言葉を失ったのか、父は黙り込んでぬるくなったビールをあおっていた。  駿はテレビを見るふりをしながらも、母を横目で見やった。  母は無表情で、つまみをつまんでいる。母も一応ビールも飲んでいるが、彼女はあまり強くないのでまだ一杯目だ。相当気が抜けてしまっているんじゃなかろうか。
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