転落

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アンは傘を持って外に出た。診療所の玄関の周りは庭になっており、四季折々の花が咲いていた。 彼女が昼顔の花壇の前を通るとクマバチは大切な小さな羽を懸命に動かして昼顔から飛び立った。褐色の小さな羽を早く動かして飛んでいた。クマバチの黄色いマフラーの様な首回りの綿毛は水に濡れて萎れていた。 アンはクマバチの羽音に驚いて、クマバチをはたき落としてしまった。地面に落ちたクマバチを見てホッとして彼女はどっかに行ってしまった。落ちたクマバチは何食わぬ顔で羽を動かしてどこか遠くに行ってしまった。 アンは水たまりが多数出来ている道を通って行った。水たまりに雨が落ちて飛沫の音が連続的に鳴っている。彼女はこの音に気にも掛けずに道をそそくさと歩いて行った。この先には食品販売サークルがあるのだ。 サークルに入ると彼女は最初に換金することにした。コスモポリタンの通貨は何種類もあり、毎回この通り換金をしなければならない事も多い、アンは手早く慣れた手つきで換金を済ますと食品売り場に向かう、食品売り場には何百何千何万と云う食物が冷凍パックに収められて売られていた。 色取り取り置かれており、その冷凍パックを色々な人々が買って行く、冷凍パックが入っている棚に食品が無くなるとアンドロイドが補充をしに来る。筈なのだがアンが補充を待っている分子組み換え麺はいつまで経っても補充されなかった。 旨味と云うのは科学にて説明できるものであるのでならば旨味を科学で作れるのではないかと造られたのが分子組み換えである、分子構造を少し弄り、他の食材の分子を組み込んだりするのが分子組み換え食品であった。
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