転落

5/23
前へ
/54ページ
次へ
どうやら、その棚から分子組み換え麺が無くなって数時間程は、経っている筈なのだが一向にアンドロイドが来ないので彼女は仕方なく、分子組み換えではないそば麺を買った。レジにそれを持っていくとこれを食べるなら、つゆもいるよと言われたのでそれも一緒に彼女は買っていった。 サークルから抜けると黄色いレインコートを着た集団がサークル名が入っている。トラックに乗って何処かへ向かっていった。 彼女は傘をさして、診療所へと帰った。 彼女の濡れた靴は診療所の床の金属と摩擦して、軽快で不愉快な音を立てていた。診療所では横たわれていた男が上半身だけ起こして、足元のモニターを見ていた。 アンはカメヤマの傍の椅子に座って目を伏した。彼女は傷心しているであろう、男の慰めかたを知らなかった。だから彼女は黙っていた。 モニターではカメヤマの事を報道していた。カメヤマが手品師のNo. 1だった頃にはその次だと言われていた男がカメヤマに着いて話していた。 彼はもう存在しない国の人種だって言っていましたよ、なんて言っていた。彼はそれを見て笑っていた。今No. 1と言われている男はそれに続けて、こう言った。 「カメヤマはね、虚栄心の塊ですよ、その系譜の血が入っているから酒に酔えば毎回の様に自分は日本人だって言うんです、彼にはね自分が日本人の血を持っている、事以外にね誇れるモノが無かったんですよ、だから自分の腕に頼らず薬品なんかに頼るんですよ」 カメヤマは肩を震わしてそれを見ていた。アンはそのテレビの事なんか気にせずに良いと言いたそうに彼の顔を目を伏しながら見ていた。 「お腹が空いたでしょう、そばをお食べになりなさい」 そう彼女は綺麗な声で診療室の小さな炊事場でそばを作り。カメヤマに出した。 カメヤマは出されたそばを啜りながら、テレビを見ていた。彼は何にも考えていなかった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加