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つるつると彼の口にそばが入り込んで行く。そして彼はアンを見ると今思い出したかの様に彼女に聞いた。
「ミス・アン?何故貴女は私の所にいるのですか?サイアンは?」
アンは彼の言葉を聞きその答えを話し出した。カメヤマはその話をそばを食べながら聞いていた。しかし彼女はそれを気にせず、喋り出したのだ。
「私は貴方の事を守ろうと思いまして、ここにいます、何故貴方を守ろうとしているのかは私にはわかりませんがそうしないといけないと云う圧迫感を感じました」
彼女は自身の胸に手を置く、彼女の手に振動で胸の音が聞こえてくる。金属音しか聞こえてこなかった。一定で金属と金属が噛み合う音だけだったが、彼女は一向に気にしなかった。それどころかその音を自身の心だと思っていた。その心の音を感情だと思っていた。彼女は言葉を続けて
「サイアンは私達の高飛びの用意をしていますよ、農業地に行けば貴方の事を知らない人が居るらしいですかね、彼が云うには」
カメヤマは口に含んだそばを飲んだ。彼女が胸に手を置いてる姿を見て、陶器のマリア像を思い出した。
彼の父であるカメヤマ・トシゾウが彼を大陸博物館に連れ行った事を思い出していた。
博物館の隅っこにそのマリア像はあった。ショーケースに入れられず、埃に塗れているマリア像。マリア像には右足が無かった。
カメヤマの後ろに彼の父が立っていた。マリア像を見ていた。カメヤマ少年は少し緊張した。彼の心境を例えるならば、デパートに母と買い物に行きそこの楽器販売店でトライアングルをねだろうと思う子供の気持ちでは無いだろうか。特に美しいわけでは無いし、デパートなら他に買う物はある、それにそんな要らない物、多少ではあるが値を張る物だ、絶対に母親はそんな物は要らないと突っぱねるだろう。
トシゾウはマリア像を見ながら、これより最良いものが観れるんだそっちに行こうじゃないか?、と言った。特にその言葉を気にせず、カメヤマ少年は父の手を握り、博物館の奥へと消えていった。
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